赤坂国際会計事務所

アフリカ商事法調和化機構(OHADA)における 統一商事会社法の概要について(1)

2016.03.18

2013年作成

  1. はじめに

今年横浜にてアフリカ開発会議が開催された。安倍晋三首相は、会議終了後の共同記者会見で「21世紀半ばにかけ、アフリカは間違いなく成長の中心になる。そこに今、投資しないでいつするのか。伸びるアフリカに投資すべきは今だ」と強調している[i]。数ある企業は、貧困により苦しむアフリカを助けるというイメージから脱却し、投資の対象又は企業活動の舞台として考えつつある。そこで、かかる傾向の一助として参考になるように、アフリカ商事法調和化機構[ii](以下、「OHADA」)における統一商事会社法の概要について紹介する。なお、本文中や脚注等にある翻訳については、公定訳に準拠するものではなく、著者の専ら私見に基づくところであり、なんらの責任を負うことはない[iii]。詳しくは原文であるフランス語を参照されたい。

 

  1. OHADAについて

1.OHADAの概要について

フランス大陸の西部から中部にかけてのフランス語圏に属する国々は、従来からCFAフランと呼ばれる共通の通貨を使用するなど、相互の結びつきが強かった。また、植民地時代にフランスの法制が行われていたことから、法的・社会的なバックグランドも一定程度共有されていた。そこで、これらの諸国が、中心となって統一的な商事法を作成し、この地域における市場の統合と法制度の統一を同時に実現しようという構想が生まれた。そのために設立された国際組織が、OHADAである[iv]

 

2004年より変更された点として、構成員がベナン共和国(Bénin)、ブルキナ・ファソ(Burkina Faso)、カメルーン共和国(Cameroun)、中央アフリカ共和国(Centrafrique)、コモロ・イスラム連邦共和国(Comores)、コンゴ共和国(Congo)、コートジボワール共和国(Côte d’Ivoire)、ガボン共和国(Gabon)、ギニア共和国(Guinée-Conakry)、ギニアビサウ共和国(Guinée-Bissau)、赤道ギニア共和国(Guinée-Équatoriale)、マリ共和国(Mali)、ニジェール共和国(Niger)、セネガル共和国(Sénégal)、チャド共和国(Tchad)、トーゴ共和国(Togo)の他に、2004年コンゴ民主共和国(RDC)が加わり、17カ国となった。

また、1995年に発効したOHADA条約は、2008年に修正されていること、ならびに、同条約に基づき制定された統一法が以下の通り①統一商事通則法及び③統一担保法の変更も注意を要する。

①統一商事通則法(Acte Uniforme relatif au Droit Commercial Général)→1997年採択2010年に新法に変更。

②統一商事会社法(Acte Uniforme relatif au Droit des Sociétés Commerciales et du Groupement d’Intérêt Économique)

③統一担保法(Acte Uniforme portant organisation des Sûretés)→1997年採択2010年に新法に修正。

④統一執行法(Acte Uniforme portant organisation des Procédures  Simplifiées de Recouvrement et des Voies d’Éxécution)

⑤統一倒産処理法(Acte Uniforme portant organisation des Procédures Collectives  d’Apurement du Passif)

⑥統一仲裁法(Acte Uniforme relatif au droit de l’Arbitrage)

⑦統一会計法(Acte Uniforme portant organisation et Harmonisation des Comptabilités des Entreprises)

⑧統一道路物品運送法(Acte Uniforme relatif aux Contrats de Transport de Marchandises par Route)

 

2.OHADAの特徴

OHADA条約は、商事法に限定されて適用され、先述の加盟国において国内法へ直接適用される(同条約10条)。内国法における同条約以前の法律及び以後の法律に関しても、OHADA条約が優先される[v]。司法・仲裁裁判所(Cour Commune de Justice et d’Arbitrage ; CCJA)が司法裁判所としてOHADA条約及び下位規定を解釈・適用するなど構成国の裁判所に対する最上級審として機能する[vi]。上級司法研修所(École Régionale Supérieure de la Magistrature; ERSUMA)が解釈運用を担うべき法律家の育成までシステムに組み込んでいることは、小塚教授が述べるとおり興味深いところである[vii]

但し、本稿では、紙面の関係から②統一商事会社法に限定し、かつ、同法の概要及び株式会社の設立等を紹介するにとどめる。

      

  • 統一商事会社法について

1.フランス法の影響

同法には他の統一法と同様に、フランス法の影響が色濃く残っている。本稿では、統一商事会社法、日本法とフランス法を大々的に比較する意図はない。但し、概念が不明な場合はフランス法をベースに考えることができること、並びに、フランス法を熟知されている方にとってはフランス法との違いを認識しておく必要があることだけを述べておく。例えば、フランスでは、人気のあるSAS(société par actions simplifiée)は、本統一法においては規定されていない。しかし、域内で利用可能な企業形態として、株式会社(société anonyme ; SA)、有限会社(société à responsabilité limitée ; SARL)、匿名会社(société en participation)、経済利益団体(groupement d’intérêt économique ; GIE)が規定されているなど、フランスでは馴染み深いものがある。

 

2.統一商事通則法との関係

本来であれば、会社を含む商人等の規定されている統一商事通則法を先に紹介し、それから統一商事会社法を紹介するのが通常の流れだと考えられる。しかし、投資者の方にとってはまずどのような会社形態を採るかを検討してから総則等に入った方がより理解しやすいのではないかと考え、あえて統一商事会社を先に紹介する。よって、統一商事会社法のみを理解しても投資環境を理解したとは言えないことは予め御理解いただきたい[viii]

 

  1. 株式会社設立について

1.概要

 株式会社は、投資に使用される最も一般的なヴィークルといわれている[ix]。一般的な手続の概要[x]としては、発起人[xi]が、株式申込の準備及び定款の準備を行う。株主申込人が定款に署名をしたときに、会社は事実上設立(société constituée mais non encore immatriculée)[xii]され(統一商事会社法101条)、発起人は役割を終える(同102条)。その後は、後述する役員(代表取締役や取締役会会長兼社長等)が、事実上設立・登録前の会社のために、登録等の行為を行うことになる(同104条)。

なお、株式会社は、1人の株主でも多数の株主でも構わない(同385条)[xiii]。株主は、自然人でも法人でも構わない(同7条)。

 

主な手続

株式申込・払込・定款の作成等

定款署名後から登録まで

統一商業登記簿への登録

分類及びその効果

設立中の会社

→発起人が行為し、その効果は同106条以下に規定されている。

事実上設立・登録前の会社

→発起人は存在せず、権利株主が役員に事実上設立・登録前の会社のため行為する権限を与えることが出来るなど、同111条以下に規定されている。

法人格の付与

 

 

 

2.資本金

最低資本金は、1000万CFAフランである(同387条1項)。1株あたりの額面額は、1万CFAフランを下ることはできない(同条2項)。資本金は、定款に署名する前にすべて株式申込されてなければならない(同388条)が、すべての払込みをする必要はない。申込者は、株式の額面額の4分の1を払い込めば足り、残部については後述する統一商業登記簿(registre du commerce et du crédit mobilier ; RCCM)の登録から3年以内に払い込めば足りる(同389条)。

 

3.株式申込及び公証人との協働

定款の作成は事前にする必要があるものの、その署名は株式申込み、株式申込金の払込や申込・払込についての公証人による認証の後にされる(同390条乃至396条)。

現金出資による株式の申込みは、発起人が作成した株式申込書に申込人等が署名及び日付を記載した株式申込証(bulletin de souscription)によって成立する(同390条)。申込証は、2つの正本が作成され、1つは設立中の会社にもう1つは申込及び払込についての認証を行う公証人に引き渡されることになる(同391条)。株式申込金は、設立中の会社名義で公証人ないし設立中の会社の本店所在地の銀行に保管される(同393条)。なお、同保管金は、RCCMに登録されない限り、原則として引き出すことができない(同398条1項)。

その後、株式申込証や銀行の保管証明書を提示された後、公証人が申込・払込認証公正証書(déclaration notariée de souscription et de versement)を作成する(同394条)[xiv]

なお、現物出資も許されるが、その手続(同399条以下)については、割愛する。

 

4.定款の作成

定款は、公証人による公正証書又は私署文書[xv]による(同10条)。株式申込者又はその代理人は、公証人の申込・払込認証公正証書作成後、署名を定款にする(同396条)。

(1)必要的記載事項

会社の形態、名称、活動の性質及び範囲(会社の目的)、本社の住所、会社の存続期間[xvi]、資本金等(同13条)の他、株式会社の場合、1)経営の方式、2)(場合により)最初の取締役会の自然人取締役、法人取締役の自然人代表者、代表取締役、最初の会計監査人、補佐会計監査人の氏名・住所・職業・国籍、3)法人取締役の場合その名称、資本金、会社の形態、4)発行株式の種類、5)機関の具体的構成、機能、権限の規定、6)(場合により)株式の譲渡制限、譲渡の同意の方法、新株引受権などがある(同397条)[xvii]

(2)機関についての若干の説明

本稿の目的は、設立に関する記述であるので、機関について詳述すべきではないが、基本的なことが理解していないと定款を作成し得ないので、簡単に説明する。

機関構成は以下の①及び②のうちいずれかを選択する必要がある(同414条)。この構成変更は、特別総会[xviii](assemblée générale extraordinaire)によって変更が可能である(同414条3項)。

 

①株主が1人から3人しかいない場合(同494条)

→代表取締役(administrateur général)のみ(取締役会非設置会社)

②株主が2人以上いる場合[xix]

→取締役会設置会社

 

②取締役会設置会社の場合、取締役会会長[xx](président du conseil d’administration ; PCA)及び社長[xxi](directeur général ; DG)、又は、取締役会会長兼社長[xxii](président directeur général ; PDG)のいずれかを選択することができる(同415条)。取締役に関しては3人から12人までの間で構成される(同416条)。取締役の3分の2以上は、各々株式を保有する必要がある(同417条)。取締役会会長兼社長は、取締役会が取締役会の構成員の中から任命する(同462条1項)。自然人でなければならない(同条2項)。取締役会会長も同様である(同477条)。社長は、自然人でなければならないが、取締役会の構成員である必要はない(同485条)。任命機関は、同様に取締役会である(同条)。取締役は、設立時は定款ないし創立総会で決定されるが、その後は通常総会(assemblée générale ordinaire)で任命される(419条)。OHADAはフランス法と同様に法人取締役を認めているが、その場合代表者(représentant permanent)を指定しなければならない(同421条)。

 

これに対して、①取締役会非設置会社の場合、代表取締役(administrateur général)は株主である必要はない(同495条)。最初の代表取締役(premier administrateur général)は、定款又は創立総会によって決まるが、その後は通常総会で任命される(同条)。

 

さらに、会計監査人及び非常勤会計監査人も任命する必要がある(同702条)。

この他詳細は、機関について記載する際に譲る。

 

5.創立総会(assemblée générale constitutive)

現物出資の場合等、法令で開催を要求されている場合以外、開催が必要なのかは曖昧なところであるが、実務では会社が存在することを示すために開催することを勧めているようである[xxiii]

 

6.統一商業登記簿への登録

匿名会社(société en participation)を除き、すべての会社は統一商業登記簿へ登録されなければならず(同97条)、本統一法に別に規定しない限り統一商業登記簿に登録されてから、法人格を享受する(同98条)。定款の署名で会社は事実上設立・登録前の会社として存在するが(株式会社は現物出資等の場合創立総会開催後[xxiv])、かかる存在は第三者に対抗できない(同101条)。

統一商業登記簿の具体的な規定は、統一商事通則法にある(統一商事通則法34条以降)。同登記簿は、裁判所等が管理し、各国レベルで同登記簿に記録された情報を一元化する。さらに、司法・仲裁裁判所が各国レベルで登録された情報を域内レベルで一元化することになっている(同36条)。

法人の登録の申請書には以下の情報を記載する。

具体的には、会社の名称、会社の目的(活動内容)、会社の形態(今回は株式会社)、資本金(現金出資や現物出資なども含む)、本店所在地、会社の存続期間、株式会社の名義で行為する権限を有する取締役会会長兼社長・代表取締役等の名前・生年月日・出生地・住所、会計監査人の氏名・生年月日・出生地・住所、その他法令に規定されている事項等を記載する。

そして、申請書に以下の文書を添付する(同47条)。

認証された定款1通、申込・払込認証公正証書、株式会社の名義で行為する権限を有する取締役会会長兼社長・代表取締役等の認証されたリスト、同10条に該当しない旨証明した無犯罪等宣誓書(及び登録から75日までに犯罪経歴証明書を提出する)、(場合により)申請者の活動をすることを認可する事前認可等。

なお、現時点においては、同登記簿は使用されていない地域もあるので、この点留意する。

 

多くの地域では、税務当局の登録も必要であり、さらに、各地の法律に準拠し別途通知届出等する必要がある点も留意すべきである。

 

7.公告

会社の登録から14日以内に、登録をした国の加盟国で法定公告をすることができる新聞に通知を掲載する必要がある(統一商業会社法261条)。通知の内容は、会社の名称、会社の形態、資本金、本社の住所、会社の目的(概要)、会社の存続期間、現金出資額等である(同262条)。

 

Ⅴ おわりに

以上の通り、おおよその留意点を記載したが、設立の規定の多くは紙面の関係から端折ることとなった。よって、読者は万一設立に携わることとなった場合、本稿のみならず、前述の通り、実際にフランス語である原文を参照しつつ、設立する予定国の専門家に依頼することを勧めたい。

本稿では、多くの示唆をJoseph ISSA-SAYEGH氏(UNIDA[xxv]副会長)、Joseph KAMGA氏(UNIDA会員)、Jean Alain PENDA氏(UNIDA会員)、Paul BAYZELON氏(UNIDA会員)及びAurélien CANGE氏(赤坂国際法律事務所)から得た。この場を借りて感謝の意を示したい。

[i] http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE95205Q20130603

[ii] Organisation pour l’Harmonisation en Afrique du Droit des Affaires。

[iii] OHADAの公用語は、フランス語、英語、スペイン語、ポルトガル語とされている(同条約42条)。文書がフランス語で公表された場合効力を有し、ほかの言語への翻訳に齟齬がある場合、フランス語が証拠となる(同上後段)。よって、フランス語版が現実的には正本としての役割を果たしている。

[iv]  詳細は小塚荘一郎「アフリカにおける統一商事法」国際商事法務 Vol.32, No.2(2004),180頁参照。

[v] 実際には、同条約10条の解釈については争いがある。

[vi] 司法・仲裁裁判所は、具体的な訴訟に対して当事者または構成国裁判所の付託に基づいて判断することができる(同条約14条、15条、18条、)。

その他、統一法案に関して意見を述べる(同条約7条)、閣僚理事会(Conseil des ministres)や加盟国から付託を受け裁定を出す(同条約14条)、各国の裁判所から付託を受け裁定を下す(同条約14条)権限を有し、意見・裁定は義務的な効果はないが、破毀院的な立場を有する司法・仲裁裁判所の申立される可能性があるため、各国の裁判所は無視することが出来ない効果がある。

[vii] 小塚:前掲注(3)181頁。

[viii] 実際には、OHADAのみを理解したところで、投資環境が完全に理解できるものではない。加えて、税法・雇用関係法・投資関係法など現地法も理解しておく必要がある(なお、労働法については、統一法になることが見込まれている)。かかる現地法を理解したとしてもアフリカの投資環境は不透明な部分があり、現地の現状に習熟したパートナーと組んで事業を行った方がうまく行く場合が多いことも、他の途上国と同じである。

[ix] Martor B. et al. 「Le droit uniforme africain des affaires issu de l’OHADA 」(2ème éd.), LexisNexis, Paris, 2009,  102頁。

[x] その他、統一商事会社法は上場会社の設立についても規定するが、ここでは割愛させていただく。

[xi](Sous la coordination de) Issa-Sayegh J. et al.「OHADA Traité et actes uniformes commentés et annotés」, Juriscope, 2012, 417頁。

[xii] 署名以前は、設立中の会社(société en formation avant sa constitution)の規定に従う(同106条以下)。なお、署名以降は、事実上設立・登録前の会社について規定に従う(同111条以下)。

[xiii] フランスでは、最低7人の出資で設立される(フランス商法典L.225-1)。7人より下回ると、商業裁判所は、解散判決を下す場合がある(同L.225-247)。

[xiv] 公証人は、設立の際重要な役割を果たすため、投資者にとっては公証人の任命を慎重にしなければならない。

[xv] 終局的には、公証人に提出することになる(同10条)。

[xvi] 会社の存続期間は原則として99年を超えることが出来ない(同28条)。

[xvii] 定款の記載がない場合、事実上の会社の規定が適用され(同864条)、合名会社(SNC)の規定が株主に適用される(同868条)。

[xviii] 株主総会には、通常総会(assemblée générale ordinaire ; AGO)、特別総会(assemblée générale extraordinaire ; AGE)及び特別株主総会(assemblée spéciale)がある。詳しくは機関において詳述する。

[xix] 株主が一人の場合、①しか採用できないことになる。

[xx] 取締役会や株主総会の議事進行等を行う(同480条)。

[xxi] 業務執行権及び代表権を有する(同487条)。

[xxii] 取締役会や株主総会の議事進行権の他、業務執行権及び代表権を有する(同465条)。

[xxiii] Martor B. et al.:前掲注(8)104頁。

[xxiv] (Sous la coordination de) Issa-Sayegh J. et al.:前掲注(10)417頁。

[xxv] Association pour l’Unification du Droit en Afrique。

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