赤坂国際会計事務所

2026年国家情報局始動と企業スパイ防止法の新潮流:法的防衛の新基準

2026.03.16UP!

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現在の日本の状況──「スパイ防止法」不在の構造

1985年、「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」が国会に提出されましたが、強い人権侵害の懸念などから廃案となり、成立していません(日弁連・1985年声明)。

その後も、スパイ行為一般を構成要件として処罰する独立の「スパイ防止法」は制定されておらず、日本が「スパイ天国」と批判される議論の背景になっています。

近年の新しい動き──経済安保・セキュリティクリアランス

2024年5月に「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」(重要経済安保情報保護活用法)が成立し、2025年5月に施行されました。これは経済安保分野でのセキュリティ・クリアランス制度を定めるもので、「経済安保情報」の漏えい防止を図る法律です。

もっとも、これは「経済安保関連の機微情報の保護」に焦点を当てる法律であって、一般的なスパイ防止法(諜報活動全般を包括的に処罰する法)とは位置付けが異なります。

他国が日本企業を直接捕捉する時代

2025年、台湾検察当局は、TSMCの2ナノ級先端半導体技術に関する機密を不正取得した事件で、東京エレクトロンの台湾子会社を国家安全法違反などの罪で起訴し、約6億円の罰金を求刑しています。元TSMC社員が同子会社に転職し、営業担当として先端設備のサプライヤーになろうとする過程で、TSMCの「国家核心重要技術」に当たる営業秘密を取得したと認定されています。

台湾高検は、個人だけでなく法人にも社員監督義務や不正防止措置の不足を理由に国家安全法上の刑事責任があると判断しており、「先端技術=国家安全保障」の時代には、他国の国家安全法の射程に日本企業の海外子会社が直接入ることが現実のリスクであることを示しています。

POSCO事件(別稿参照)に見られるように、安全保障の観点から技術流出をどう止めるかが今まさに問われています。

高市政権が推進する国家情報局──単なる組織再編ではない

高市政権が推進する国家情報局の設置は、単なる政府組織の再編ではありません。2026年3月13日、「国家情報会議設置法案」が閣議決定され、今通常国会での成立・2026年7月の発足が目指されています。さらに、今夏には外国の「スパイ防止法」に関する有識者会議の設置、秋の臨時国会以降に関連法案の提出が予定されており、対外情報機関の創設も視野に入っています。

日本はすでに、特定秘密保護法(2013年)、経済安全保障推進法(2022年)、重要経済安保情報保護活用法およびセキュリティ・クリアランス制度(2024〜25年)といった制度を段階的に整備しています。その延長線上に「インテリジェンスの司令塔」としての国家情報局が位置づけられ、最終的には日本版スパイ防止法(技術者・研究者・企業スパイに対する本格的な刑事罰)の議論が本格化していきます。

企業にとっての意味──「情報の受け手」から「インテリジェンス主体」へ

企業にとって重要なのは、この流れが「国家の情報保全」の問題にとどまらず、「企業の行動ルールの書き換え」に直結するという点です。自社技術が重要経済安保情報や特定重要技術に該当する場合、誰と共同研究を行い、どの国と情報共有するかが、国家情報局のリスク評価や同盟国の目線を前提に設計される時代に入っていきます。

そのとき、企業は単なる「情報の受け手」ではなく、自ら情報を集め、分析し、経営判断に反映させる「インテリジェンス主体」としての役割を求められます。これは、法務・コンプライアンス部門が中心となって、コーポレート・インテリジェンス機能をどこまで社内に内在化させるかという、戦略的なテーマになってきます。

著者情報

赤坂国際法律会計事務所

弁護士 角田進二(Shinji SUMIDA)

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