赤坂国際会計事務所

2024年改正建設業法:労務費・価格転嫁・工期の実務対応

2025.11.26UP!

  • blog
  • 2024年問題
  • 価格転嫁
  • 建設Gメン
  • 建設業法改正
  • 標準労務費

建設業界における「2024年問題」や資材高騰への対応として、改正建設業法等が成立しました。今回の改正は、建設業の「担い手確保」を最優先課題とし、賃金引き上げ、長時間労働の是正、生産性向上の3つを柱としています。

本記事では、発注者・受注者双方が押さえておくべき法的義務と、実務上の変更点について、分かりやすく解説します。

1. 改正の背景と目的:新3Kから「新4K」へ

建設業界は、他産業と比較して「賃金が低い」「労働時間が長い」という構造的な課題を抱えています。さらに、資材価格の高騰分を価格転嫁できず、労務費が圧迫されるケースも少なくありません。

今回の改正は、これらの悪循環を断ち切り、以下の「新4K」を実現することで、若手入職者や熟練技能者を確保することを目的としています。

  • 給与がよい
  • 休日がとれる
  • 希望がもてる
  • カッコイイ

2. 労働者の処遇改善に関する4つの改正ポイント

労働者の賃金原資を確保するため、以下の新しいルールが導入されました。

① 標準労務費の作成・勧告

内容: 中央建設業審議会が「労務費の基準」を作成・勧告します。

公共・民間を問わず、適正な賃金の原資(労務単価×歩掛)を確保するための目安となります。

② 処遇確保の努力義務化

対象: 建設業者

技能者の能力評価に基づき、適正な賃金を支払うよう努める義務が課されます。国は取組状況を調査・公表します。

③ 不当に低い見積りの禁止

対象: 受注者・注文者

「材料費等」を著しく下回る見積りの提出や、変更依頼が禁止されます。違反した発注者には勧告・公表が行われます。

④ 原価割れ契約の禁止

対象: 受注者(建設業者)

労務費単体だけでなく、工事全体の原価を著しく下回る契約の締結自体が禁止されます。

3. 資材高騰による労務費への「しわ寄せ」防止

(1) 契約書への記載義務化(スライド条項の明確化)

建設工事の請負契約書における法定記載事項が追加されました。これまでは曖昧にされがちだった以下の項目を明記する必要があります。

  • 資材価格等の変動に基づく請負代金の変更
  • その変更額の算定方法

これにより、「いかなる場合も契約変更しない」といった一方的な契約は認められなくなります。

(2) 「おそれ情報」の通知と協議申出権

資材不足や価格高騰のリスク(おそれ)がある場合、以下のプロセスで対応します。

STEP 1:契約前(通知義務)

受注者は、資機材の高騰や供給不足の「おそれ」がある場合、根拠資料(統計資料や見積書)を添えて注文者に通知しなければなりません。

STEP 2:契約後(協議申出権)

リスクが顕在化した場合、受注者は工期や代金変更の協議を申し出ることができます。注文者(特に公共工事発注者)には、この協議に「誠実に応じる義務」が発生します。

4. 働き方改革と生産性向上(ICT活用)

(1) 工期ダンピング対策の強化

これまで注文者に禁止されていた「著しく短い工期での契約」が、受注者(建設業者)側にも禁止されます。これにより、長時間労働を前提とした無理な工期での受注ができなくなります。

(2) 技術者配置の合理化とICT

ICTツールを活用して効率的な現場管理を行う場合、主任技術者等の専任義務が緩和されます。

  • 兼任の要件例: 請負金額1億円未満、兼任現場数2以下、現場間移動が2時間以内など。
  • 遠隔管理: カメラやウェアラブル端末を用いた施工体制の確認が必要です。

5. 実効性の確保:建設Gメンの強化

法律を作って終わりではありません。国土交通省は「建設Gメン」による監視体制を強化しています。

  • チェック項目: 指値発注、不当な減額、労務費へのしわ寄せ、著しく低い見積り等。
  • 調査手法: 個々の請負契約の実地調査を行い、違反があれば是正勧告や企業名の公表を行います。

著しく低い労務費の見積りがあった場合、それが単なる「安売り」なのか、正当な「生産性向上」によるものかを厳格に比較検証し、不適切な場合は指導を行います。

よくある質問(Q&A)

Q. 民間工事も改正法の対象になりますか?

A. はい、対象になります。「標準労務費の勧告」や「著しく低い労務費見積りの禁止」などは、公共工事・民間工事を問わず適用されます。

Q. いつから施行されますか?

A. 令和6年6月14日に公布され、9月1日施行済され、段階的に施行されています。最新の施行状況は国土交通省の発表をご確認ください。

この記事の著者

赤坂国際法律会計事務所
弁護士 角田進二(Shinji SUMIDA)

建設業法および関連法規に精通。事業者側の立場から、法令順守と実務対応のアドバイスを行っている。

ご相談はこちらから