赤坂国際会計事務所

2025年関税戦争:メキシコ投資急増と北米サプライチェーン生存戦略

2025.12.28UP!

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2025年の関税政策は、北米の投資環境を一変させました。「自社のサプライチェーンはどう守るべきか?」「新たな投資チャンスはどこにあるのか?」

多くの企業や投資家がこの難題に直面しています。本記事では、関税戦争下におけるメキシコ・カナダの最新FDI(対内直接投資)動向や、主要企業のサプライチェーン再編事例を徹底解説。トランプ関税時代を生き抜くための、具体的なファクトと戦略的視点を提供します。

1. 資本移動と市場反応:メキシコの躍進と米国回帰

2025年の関税戦争は、グローバルな資本移動に明確な変化をもたらしました。特に「メキシコへの投資拡大」と「米国への回帰(リショアリング)」という2つの大きな潮流が生まれています。

メキシコの対内直接投資(FDI)が過去最高を更新

関税の脅威にもかかわらず、メキシコへの投資熱は冷めるどころか加速しています。

📈 メキシコ投資の主要データ

メキシコ経済相エブラルドは、関税交渉後の投資誘致強化を明言。ゴールドマン・サックスCEOの訪墨など、金融界からの注目も高まっています。

加速する「米国回帰(リショアリング)」

一方で、関税リスクを回避するため、米国国内へ生産拠点を移す動きも顕著です。2025年11月までに発表された主要企業の動きをまとめました。

🇫🇷 エア・リキード & 🇬🇧 アストラゼネカ

米ルイジアナやバージニア等で巨額投資を発表。アストラゼネカは総額500億ドル規模の工場新設・拡張を計画。

🇯🇵 ホンダ & 🇰🇷 ヒュンダイ

ホンダは「米国販売車の現地生産」を目指し生産移管。ヒュンダイはジョージア新工場でHV生産を開始。

金融市場:明暗分かれるペソとカナダドル

金融市場の反応も対照的でした。メキシコの建設的な対米アプローチが評価され、通貨と株価に反映されています。

  • メキシコ・ペソ:対カナダドルで約9%以上上昇(ペソ高・カナダドル安)。
  • メキシコ株:ETF(EWW)が年初来約40%以上上昇し、S&P500をアウトパフォーム。
  • カナダ市場:通貨安と輸出企業の業績不振等により低迷。

2. カナダ企業のサプライチェーン再編:事例と動向

カナダ企業は、関税ショックへの対応として「サプライチェーンの大手術」を余儀なくされています。

自動車部品産業の苦悩

世界的大手マグナ・インターナショナル

 

  • 米国内供給の強化:完成車メーカー(OEM)の米国生産回帰に追随し、米国拠点の能力を拡充。

一方で、資金力のない中小サプライヤーは「コスト高騰と売上低迷」の二重苦にあることが予測されます。

本社移転と調達先の多様化

自動車産業以外でも、生き残りをかけた動きが活発化しています。

  • 本社移転(レドミシリ)の検討:物流大手TFIインターナショナルは、一時「米国への本社移転」を発表(後に撤回)。
  • リスク軽減策の実施

    米国向け輸出企業(カナダの全輸出企業の86.6%を占める)は特に脆弱な立場にあります。これらの企業の約3分の1(32.2%)が新たな米国関税により大きな影響を受けると予想しており、さらに19.8%が中程度の影響を見込んでいます。

    今後3ヶ月間で、輸出企業の71.9%がコスト関連の障害に直面すると予想しており、30.4%が輸出全体の減少を予測しています。輸出企業の35.4%で収益性の低下が見込まれ、42.9%が営業費用の増加を予見しています。

    これに対応して、輸出企業の約5分の3(56.8%)がすでに行動を起こしています。このうち24.6%が米国外で新規顧客を探し、18.1%が大型投資や支出を延期しました。製造業輸出企業の間では、82.5%が緩和策を実施しており、そのうち43.8%が海外での代替顧客の開拓を行っています。Canada-U.S. tariff clash reshapes business: Statistics Canada

 

著者情報

赤坂国際法律会計事務所
弁護士 角田進二(Shinji SUMIDA)

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