アフリカ商事法調和化(OHADA)における統一商事会社法の概要について(3)
2016.03.18
2014年執筆
Ⅰ はじめに
国際通貨基金(IMF)の統計によると、ソマリアを除くアフリカ53カ国の2013年の国際総生産は約212兆円と、1995年当時の日本の総生産額とほぼ同水準に過ぎない。アフリカ最大規模の南アフリカも3,539億ドル(約36兆円)と大阪府と同じレベルである。国連貿易開発会議(UNCTAD)によれば、2012年の対アフリカ投資はインド等南アジアが93億ドル、欧州諸国は79億ドル、米国は48億ドル、中国は18億ドルとのことである[1]。なお、日本の対アフリカ対外直接投資はジェトロによると2012年当時1億1,600万ドルと出遅れている様子である[2]。
アフリカ市場は、人口10億人超ありながら若い世代が多く[3]無視できないマーケットである。投資を成功させるためには、ビジネスパートナーに恵まれること、政治情勢を見極めリスクコントロールすること等様々な要素があるが、現地の法律関係の処理をすべてビジネスパートナーに任せることは後々禍根を残す可能性が高い。
そこで、現地のガバナンスの状況がどのようになっているのか一つのメルクマールとして示すため、前回(2)取締役会について触れたが、今回は、紙面の許す限り、その他の機関について記載する。
Ⅱ 取締役会設置会社
取締役会設置会社には、1人の自然人が取締役会会長と社長の地位を兼任する類型と取締役会会長及び社長の地位に各々の自然人が就任する類型がある。
1.取締役会会長と社長の地位を兼任する類型
取締役会会長兼社長は、会社の目的に違反しない限り、法律ないし定款で定める株主総会や取締役会の権限を除く広範な権限を有し、取締役会及び株主総会の議事を進行する。第三者に対し代表権を有する(統一商事会社法465条)。但し、定款、株主総会決議及び取締役会決議により、制限を付することが出来る(同条)。但し、かかる制限は、第三者に対しては、善意の第三者に対しては対抗できない(同条)。取締役の構成員であること、自然人であること等が要件である(同462条)。同人は、会社と労働契約を締結することができる(同466条)。
社長補佐は、取締役会会長兼社長の提案に基づき取締役会により選定され、任期も取締役会の議決事項である(同471条)。但し、取締役の場合その任期を超えることができない(同条)。また、取締役会会長兼社長の同意に基づき、取締役会は社長補佐の委任事項を決定することが出来る(同472条)。第三者に対しては、社長補佐は取締役会会長兼社長と同様の権限を持っているとされ、同人の代表権の制限は善意の第三者に対抗できない(同条)。
その他、取締役会会長兼社長と同様に、社長補佐は労働契約を締結でき(同473条)、報酬は取締役会で決まる(同474条)。なお、解任は、取締役会会長兼社長の同意に基づき取締役会が行う(同475条)。
なお、自然人の取締役会会長兼社長及び社長補佐は、同一の国に本社の所在する株式会社の代表取締役や社長等を合計3つ以上兼任することはできない(同464条)。
2.取締役会会長と社長の地位を兼任しない類型
取締役会会長は、取締役会の構成員であり、かつ、自然人であることを要する(同477条)。任期は、取締役の任期を超えることはできず(同478条)、兼任規制(株式会社の取締役会長を合計3つ以上兼任することはできず、取締役会会長及び2つの株式会社の代表取締役や社長を兼任することができない等(同479条))、会社と労働契約を締結でき(同481条)、取締役会の報酬の決定(同482条)、取締役会による解任(同484条)等、取締役会会長兼社長と類似する。取締役会会長は取締役会や株主総会を招集し、必要な調査等を行う(同480条)。
社長は、取締役会の構成員でなくてもよいが、自然人であることを要する(同485条)。社長の任期は取締役会の議決事項である(同486条)。社長は、一般的な経営事項を扱い、第三者に対して代表権を有する(同487条)。労働契約を締結でき(同489条)、取締役会が報酬を決定する(同490条)。取締役会はいつでも社長を解任できる(同492条)。
社長補佐は、先述Ⅱ1の社長補佐とほぼ同様である(同485条)。
Ⅳ 取締役会非設置会社
3人以下の株主しかいない場合、取締役会を設置せずに、代表取締役によって経営することができる(同494条)。代表取締役は、設立当時は定款ないし創立総会によって選定されるが、その後は通常総会によって選定される(同495条)。株主である必要はない(同条)。代表取締役には自然人の要件はなく、条文上法人を否定するものではないが、争いがある[4]。株主総会はいつでも代表取締役を解任できる(同509条)。
代表取締役の任期は、定款で自由に規定できるが最高で6年である(同496条)。なお、創立総会や定款によって選定される最初の代表取締役は最高で2年である(同条)。代表取締役は、本社所在地のある国で別の株式会社の代表取締役、取締役会会長兼社長又は社長の地位を2つ以上兼任することはできない(同497条)。
代表取締役は、第三者に対して代表権を有する(同498条)他、経営や運営の責任を負う(同条)。代表取締役は、労働契約を会社と締結することができる(同499条)。かかる労働契約は株主総会の事前の承認が必要である(同条)。
代表取締役は、労働契約によって受領する額を除き、通常総会が決定した年間報酬(同501条)以外、如何なる報酬も受領することができない(同500条)。それに違反した定款ないし決定は無効となる(同条)。
代表取締役の提案により、通常総会は代表取締役を補助するため代表取締役補佐を選任することができる(同510条)。任期は、総会により自由に決定することが出来る(同511条)。代表取締役補佐の権限は、代表取締役の同意の下、総会により決定することができる(同512条)。代表取締役補佐は、会社と労働契約を締結することができる(同513条)。通常総会は、同人の報酬を決定することが出来る(同514条)。代表取締役の提案により、通常総会はいつでも代表取締役補佐を解任することが出来る(同515条)。
Ⅴ 株主総会
株主総会及び取締役会の比較[5]
| 取締役会 | 通常総会 | 特別総会 |
主な決議対象
| 経営方針の決定(同435条) 取締役会会長や社長等の選任・解任(同462条、469条、477条、484条、485条、492条等)、報酬の決定(同467条、482条、490条等) 合意統制事項に対する事前承認(同438条)等 | 取締役の選任・解任(同419条、433条) 代表取締役等の選任(同495条) 会計監査人の選任(同703条) 会計書類の承認(同546条) 合意統制事項に対する事後承認(同546条)等、特別総会及び種類株主総会事項以外の事項について決定する | 定款の変更、合併、会社分割、組織変更、本店所在地の変更、解散、会社の有効期間の延長等(同551条)
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定足数 | 取締役総数の半分(同454条)
| 最初の招集→議決権を有する株主の議決権の4分の1以上を有する有する株主が出席(同549条)
2回目の招集→定足数が必要とされない(同条) | 最初の招集→議決権を有する株主の議決権の2分の1以上を有する有する株主が出席(同553条)
2回目の招集→議決権を有する株主の議決権の4分の1以上を有する有する株主が出席(同条)
3回目の招集→ 3回目の招集は第2回目の定足数と同様であり、2回目の開催日から2ヶ月以内に開催する必要がある(同条)。 |
多数決 | 頭数に基づく多数決。出席者(代理も含む)における通常多数(同454条)。但し、定款により加重することができる。
意見が分かれた場合、定款に別の定めが無い限り、議長は採決権を行使することが出来る(同条)。 | 資本に基づく多数決。有効な投票における通常多数(同550条)。白票は含まない。 | 資本に基づく多数決。有効な投票における3分の2の特別多数(同554条)。白票は含まない。 本店所在地が別の国に移転する場合は全員一致が必要である(同条)。
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総会は、機関の設置の態様により、取締役会ないし代表取締役が招集する(同516条)。招集が無い場合、一定の要件の下、会計監査人、法定代理人、清算人等は株主総会を招集することができる(同条)。定款によって別途定めない限り、株主総会は本店所在地やその他の場所(但し本店所在地のある国内に限る)にて開催される(同517条)。
招集通知は、会社の名称、(存在する場合)略号、会社の形態、資本金額、本店所在地、統一商業登記簿登録番号、株主総会の日時場所、総会の性質(通常総会、特別総会、種類株主総会)、議事進行表等が記載される(同519条)。株主総会は、経営者の解任以外は、議事進行表に記載が無い限り審議されない(同522条)。
株主は、株主総会開催日前の15日の間に一定の文書の閲覧を請求できる他(同525条)、いつでも一定の文書を閲覧ないし謄写請求することができる(同526条)。
株主総会は、取締役会会長兼社長、取締役会会長、代表取締役などにより議事進行される(同529条)。株主総会開催の際の最も多数の株式を有する株主2人(同人ないし代理人としてでも構わない)は、同人が同意する限りにおいて開票立会人(scrutateur)に任命される(同530条)。また、議事録を作成するために株主総会は、書記を任命する(同531条)。以上の通り、事務局は議長、2人の開票立会人及び書記で構成される[6]。
株式総会毎に、権利者ないし代理人の氏名、住所、保有株式数、その株式の議決権数など記載した出席表を持参する。入場の際に出席株主や代理人は同出席表に署名する(同533条)。総会終了時に出席表に委任状を添付する(同条)。これらの処理により、開票立会人は、議決権、定足数、多数決等を確認することができる[7]。
総会後、議事録を作成する(同535条)。日付、場所、総会の性質、招集の方法、議事進行表、事務局の構成、定足数、議決内容、各議決の投票結果、総会中に提示された文書や報告書等を記載し、事務局が署名し、本店所在地で出席表及びその付属文書と共に保管する(同条)。
株主は、株主総会に行くことも、代理人を用いることも可能である(同538条)。委任状は、代理人の氏名、住所、同人が保有する株式数、同株式の議決権数、株主総会の性質を記載する必要があり、署名、委任する旨の文言及び委任の日付の記載が必要である(同条)。
株主ではない取締役も株主総会に参加することができるが、発言権のみを有する(同539条)。
通常総会の審議事項は、決算期における決算書の承認、決算期の利益配当、取締役、代表取締役、代表取締役補佐、会計監査人の選任や解任、合意規制事項に対する承認[8]等、特別総会、種類株主総会に該当するもの以外を審議する(同546条)。通常総会は、最低1年に1回開催される(同548条)。上記の表の通り1回目の招集と2回目の招集で定足数等が異なることに注意を要する。
特別総会の審議事項は、定款の変更、合併、会社分割、組織変更の承認、本店所在地の変更、解散などがある(同551条)。すべての株主は特別総会に参加することができる(同552条)。第1回目の定足数は、議決権を有する株主の議決権の2分の1以上である(同553条)。決議のためには、3分の2の過半数が必要である(同554条)。上記の表の通り1回目の招集と2回目の招集で定足数が異なることに注意を要する。
種類株主総会は、一定の種類株式を有する株主による総会であり、同種類株式に関連して何らかの変更があるときに審議する(同555条)。同種類株式を半数以上保有する株主が参加される場合に定足数を満たす。同種類株式の株主に限定される以外については、定足数及び議決要件等の規制は特別総会と同様である(同556条)。
Ⅴ 会計監査人
株式会社の監査は、会計監査人(自然人のみならず自然人で構成される会社でもなることができる)に委ねられる(同694条)[9]。会計監査人になるには、一定の要件が必要である(同条)。例えば、専門会計士会がある場合、同会が承認した専門会計士のみが会計監査人としての職務を行うことができる(同695条)[10]。同会が存在しない場合は、高等裁判所で開催される委員会のリストに事前に登載された専門会計士のみが会計監査人として職務を果たすことができる(同696条)。他に、独立性や信頼性を確保するため、概括的に独立性を損なう活動、使用人として雇用されること、商業活動の兼業等を禁止する規定を設け(同697条)、詳細に発起人、経営者、株主になることができない等の兼任規制を設けている(同698条、699条、700条)。正当に選任した正会計監査人がいない場合の審議、同694条ないし700条に違反して選任・在任する正会計監査人の報告に基づく株主総会の審議は、無効である(同701条)。正当に選任された会計監査人の報告に基づき、株主総会により同審議が明示的に追認された場合は、無効確認請求は消失する(同条)。資金公募会社は最低2人の正会計監査人と2人の副会計監査人に委任しなければならないのに対し、それ以外の株式会社においては、1人の正会計監査人及び1人の副会計監査人で足りる(同702条)。
最初の会計監査人は定款や創立総会により選任され、その後は通常総会により選任される(同703条)。前者の在任期間は2会計年度であるのに対し、後者は6会計年度である(同704条)。期間満了時は、株主総会の終了時である(同705条)。任期満了時に、重任されない場合、会計監査人は株主総会に報告することができる(同707条)。株主総会で会計監査人を選任することができなかった場合、いかなる株主も管轄裁判所の長に会計監査人の選任を請求することができる(同708条)。任期満了時に更新ないし変更しなかった場合、会計監査人の明示による拒絶がない限り、直近の通常総会まで当該任期は延長される(同709条)。会計監査人は、計算書類(états financiers de synthèse)が正当かつ正確であること、過去の会計年度の結果、財務状況、財産について正確に反映していることについて証明書を発行する(同710条)。
会計監査人は、株主総会における報告で会計書類等が正当かつ正確であることの証明書、留保を付したものを作成し又は意見を付すことが出来ない旨記載することができる(同711条)。
会計監査人の義務は、経営に関与せず、法令に従った会計の遵守を監督することである(同712条)。取締役会が作成した事業報告や会計書類(同452条)が正確で一貫しているか等を確認する必要があり、年次の株主総会で監査の報告をする(同713条)。会計監査人は株主の平等についても配慮する(同714条)。会計監査人は、監査、確認及び調査の報告、会計書類の報告、違反部分ないし不正確な部分についての報告、結果報告等を作成し、取締役会等に知らせる(同715条)。違反部分や不正確な部分について株主総会に通報する(同716条)。さらに、会計監査人は、職務で知りえた不正行為を公安局に通報する(同条)。かかる通報義務を除き、会計監査人は、職務上知りえた事項については守秘義務を負う(同717条)。
会計監査人は、職務の履行のため、監査・確認をし、情報を収集することができる(同718条)。会計監査人は、自らの責任で、専門家や協力者に補助等を依頼することができる(同718条)。但し、かかる事項は、会社に報告するものとする(同条)。複数会計監査人がいる場合、別個に調査・監査等することができるが、報告は一つの報告である必要がある(同719条)。意見が一致しない場合、その旨記載する(同条)。第三者が会社の計算で事業を行う場合、同第三者に対しても情報を一定の範囲で収集できる(同720条)。
会計監査人は、常に株主総会に招集される(同721条)。さらに、取締役会等の会議にも招集される(同722条)。
会計監査人の報酬は、会社の負担とし、複数の場合総額を決めそれを各自で分配するものとする(同723条)。会計監査人の出張費用等は、会社負担とする(同724条)。海外で付随的に専門的な事項に従事した場合、国家機関等が会社に依頼した場合等も、会社負担とする(同条)。会計監査人は、職務に際し義務に懈怠した場合民事上の責任を負う(同725条)。但し、取締役会等の構成員が犯した違反により生じた損害について、違反の事実を知りながら株主総会に報告しなかった場合を除き、責任を負わない(同726条)。かかる責任は3年で時効にかかる(同727条)。但し、犯罪に該当する場合、10年の時効になる(同条)。
公安局及び資本の10分の1以上の株主(他の株主と合わせて同割合に達する場合も該当する)は、会計監査人の選任に対し忌避の申立をすることができる(同730条)。かかる申立が認められた場合、新たな会計監査人が裁判所にて選任される(同条)。10分の1以上の株主、取締役会、代表取締役、通常総会又は公安局は裁判所に会計監査人の解任の申立をすることができる(同731条)。
Ⅵ おわりに
以上の通り、おおよその留意点を記載したが、取締役会及び取締役以外の機関に関連する事項の多くは紙面の関係から端折ることとなった。前回の統一商事会社法の概要(1)及び(2)に記載の通り、読者は本稿のみならず、実際にフランス語である原文を参照しつつ、会社の所在地の専門家に相談することを勧めたい。
以上
*1 赤坂国際法律会計事務所 弁護士
*2 2014年5月に赤坂国際法律会計事務所退所 法学修士
[1] 以上は2014年2月28日付日本経済新聞 電子版。
[2]ジェトロ「日本の国・地域別対外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)」2014年。
[3] 平成24年7月経済産業省貿易経済協力局作成にかかる資料「アフリカ諸国の経済発展」によると、アフリカ諸国の2010年当時の中位年齢は20歳程度と、日本の44.4歳(国立社会保障・人口問題研究所http://www.ipss.go.jp/pp-newest/j/newest02/3/t_4.html)と比較して半分程度である。
[4] Issa-Sayegh J. et al., OHADA Traité et actes uniformes commentés et annotés, Juriscope, 2012, 541頁。
[5] Martor B. et al., Le droit uniforme africain des affaires issu de l’OHADA, 2ème ed., LexisNexis, Paris, 2009, 123頁参照。
[6] Issa-Sayegh J. et al.:前掲注(4) 551頁参照。
[7] 同上。
[8] 合意規制事項に対しては、その他に取締役会の事前承認(同438条)、会計監査人に対する同承認があったことの通知、会計監査人の特別報告等の手続がある(同440条)。
[9] すべての株式会社では、会計監査人の設置が必要であるIssa-Sayegh J. et al.:前掲注(4) 588頁)。同違反は刑事責任となる(同897条)。
[10] 例えば、Cameroun, République du Congo, Gabon, Guinée Equatoriale, République Centrafricaine, Tchad 等を加盟国とするCEMAC域内では、CEMACのComité de directionで承認を受けた専門会計士が会計監査人になることができる(Issa-Sayegh J. et al.:前掲注(4) 588頁)。