赤坂国際会計事務所

アメリカ輸出管理の新規制:BIS 50%ルール(アフィリエイト・ルール)とは?

2025.11.01UP!

  • blog
  • BIS
  • BIS 50%ルール
  • EAR
  • Entity List
  • MEU List
  • Red Flag 29
  • UBO
  • アフィリエイト・ルール
  • コンプライアンス
  • デューデリジェンス
  • 厳格責任
  • 米国商務省
  • 輸出管理

2025年9月29日、米国商務省産業安全保障局(BIS)は、輸出管理規則(EAR)に関する重大な改正を発効しました。これは通称「【アフィリエイト・ルール】」または「【50%ルール】」と呼ばれます。

この新規則の核心は、規制対象の基準を「法的に別個か」から「所有比率が50%を超えるか」へと根本的に転換した点にあります。その結果、従来のコンプライアンス体制では対応できない重大なリスクが生じています。

(正式名称:Expansion of End‑User Controls to Cover Affiliates of Certain Listed Entities

【BIS 50%ルール】とは? 規制の核心「所有権フローダウン」

参考資料:
Department of Commerce Expands Entity List to Cover Affiliates of Listed Entities (BIS)
Entity List FAQs (BIS)

この規則の最も重要な点は、公的なリストに名前が記載されていない外国法人であっても、自動的に規制対象となることです。実際、この変更は「輸出管理にとっての分水嶺(watershed moment)」、「長年にわたるBIS規制の中で最も広範な変更の一つ」とも評されています。

具体的には、リストに名前が記載されていない外国法人であっても、以下の所有権基準を満たすことで、自動的に規制対象となります。

① 規制対象所有者(親会社)

規制対象となるのは、以下の3つのリストに掲載されている当事者です。

  • Entity List (EL)
  • Military End-User (MEU) List
  • 特定のSDNプログラム:EAR § 744.8(a)(1)に記載された制裁プログラムに基づくSDNリスト掲載者。

② 所有権の基準:合算(Aggregation)と範囲

リスト掲載者による所有は、以下の方法で計算されます。

  • 50%以上所有されていること。
  • 直接的または間接的に所有されていること。
  • 個別または合算で(in the aggregate)所有されていること。

特に、「合算ルール」は重要です。なぜなら、所有権は上記3つのリストすべてを通じて合算されるからです。例えば、ある外国法人がEntity List掲載企業に20%、MEU List掲載企業に30%所有されている場合、合計50%となり、規制対象となります。

③ ライセンス要件と審査方針

規制対象となった未掲載の外国関連会社には、所有者であるリスト掲載企業が持つライセンス要件が適用されます。

  • 最も厳しいルールの適用:複数のリスト掲載者が所有している場合、その中で最も厳しいライセンス要件、ライセンス例外の適用資格、およびライセンス審査方針(多くの場合「原則不許可」)が、その関連会社全体に適用されます。
  • 対象品目:さらに、このルールはEARの対象となるすべての品目(EAR99品目を含む)の輸出、再輸出、または国内移転に適用されます。

④ 連鎖(カスケード)適用

加えて、このルールが連鎖(カスケード)適用される点です。つまり、所有権の連鎖が何層にもわたって規制を及ぼします。BISはFAQ (Q.52) で以下の例を示しています。

BIS FAQ Q.52の例示(要約)
Company A(Entity List掲載者)が、未掲載のCompany Bを50%所有している。さらに、Company Bが、未掲載のCompany Cを50%所有している。

回答:ライセンスを取得しない限り、できません。Company BはAのルールを引き継ぎ、CはBのルールを引き継ぐためです。

この例は、取引相手の最終的な実質的所有者(Ultimate Beneficial Owners)を特定することが、コンプライアンス上不可欠であることを意味します。

輸出者に課される新しい義務と「レッド・フラッグ29」

今回の改正で、輸出者には従来のスクリーニングを超える、積極的な確認義務が課されました。

従来のスクリーニング手法の限界

従来は、政府が公開する規制リスト(例:統合スクリーニングリストCSL)と取引先名を照合する手法が一般的でした。しかし、【50%ルール】の導入により、リストに載っていない企業も規制対象となるため、この手法だけでは不十分です。

新設された確認義務(Affirmative Duty)と「Red Flag 29」

アフィリエイト・ルールは、EARに新たな「Red Flag 29」を追加しました。これは、輸出者が以下の**「認識(knowledge)」**を持っている場合に、**積極的な義務(affirmative duty)**を課すものです。

「認識」の定義と義務:
「認識」とは、取引相手の外国法人がEntity ListまたはMEU Listに掲載されたオーナーを一部でも持っていることを輸出者が知っている、または知るべき理由がある状況を指します。
この認識がある場合、輸出者は次のいずれかを実行する義務があります。

  1. 所有率を明確に確認する(50%未満であることを確認する)。
  2. 確認できない場合は、BISへライセンス申請を行う。

「知らなかった」は通用しない(厳格責任)

この義務は、「知っていた/知り得た」段階で生じます。さらに、Entity List、MEU Listの要件は厳格責任(strict liability)に基づいて執行されます。したがって、「知らなかったから責任なし」という言い訳は通用しません。輸出者が積極的にデューデリジェンスを行わずに取引を進め、結果として違反した場合、違反の認識があったと見なされる可能性があります。

日本企業が取るべき実務対応

この【50%ルール】は、特に海外子会社や複雑なサプライチェーンを持つ日本企業にとって、コンプライアンス体制の抜本的な見直しを迫るものです。

1. 「リスト未掲載=安全」という前提の放棄

多くの企業は、米国政府が提供する統合スクリーニングリスト(CSL)のような公開リストを用いて取引先をチェックすれば十分であると考えていました。しかし、従来の「公的リストに載っていなければ安全」という前提は、もはや通用しません。今後は、名簿確認だけでなく、「アフィリエイト・ルール」の目的のために個別にスクリーニングを実施する必要があります。

2. 取引先の所有構造(UBO)のプロアクティブな検証

新しい規制の遵守は、取引相手の実質的所有者(UBO)を追跡できるかどうかにかかっています。

  • 所有権のトレース義務: 企業は、直接的および間接的な所有権を、UBOまで遡って追跡する必要があります。前述の「カスケード(連鎖)」効果も考慮しなければなりません。
  • 合算所有(Aggregation)の考慮: 所有権は、EL、MEUリスト、SDN関連の3つのリスト全体で合算されます。この手法は従来の調査では見落としがちです。
  • 高リスクな構造への警戒: 特に、ロシアや中国など不透明な所有構造を持つ法域や、オフショア企業を通じて所有権が隠蔽されやすい法域では、高度なデューデリジェンス(フォレンジック・レベルの実質的所有者チェック)が必要です。

3. 契約書、エンドユーザ証明、雛形(ひな)形の速やかな見直し

この規制変更は、契約上の表明保証(Representations and Warranties)および取引文書の整備を急務とします。

  • 契約上の義務化: 取引相手に対し、自社の所有構造の証明書を提供するよう要求し、契約書に輸出管理コンプライアンス条項を盛り込むべきです。
  • 変更通知義務と解除条項: また、契約に所有構造の変更があった場合の「即時通知義務」や、EL掲載企業による買収が発生した場合の「契約解除権」を明記することが推奨されています。

4. 内部監査・コンプライアンス部門のプロセス改訂

コンプライアンス部門は、この新しい所有権ベースの規則に対応するため、スクリーニングおよびエスカレーションのプロセスを抜本的に改訂する必要があります。

  • Red Flag 29の統合: 新設された「Red Flag 29」への対応手順を、KYC(顧客確認)プロセスに明確に組み込む必要があります。
  • スクリーニングツールの拡張: 従来のCSL照合に代わり、50%以上の所有構造を特定できる民間ベンダーの専門ツールの導入を検討すべきです。
  • 文書化の徹底: 厳格責任(strict liability)体制下では、所有権確認のプロセス、情報源、および判断過程を維持し、監査時に証拠として提出できるように文書化することが極めて重要です。
  • 質問1: BISの新しい「50%ルール」とは、簡単に言うと何ですか? 回答1: 2025年9月施行の米国の新しい輸出管理規則です。Entity Listなどに掲載された企業が「50%以上」所有する関連会社(リスト未掲載でも)は、その掲載企業と同じ厳しい輸出規制が自動的に適用される、というルールです。これにより、取引先の所有構造の確認が不可欠になりました。質問2: この50%ルールで、何が一番危険なのですか? 回答2: 「リストに載っていないから安全」という従来の常識が通じなくなった点です。複数の規制対象者の所有比率を「合算」して50%を判定するため、気づかぬうちに規制違反となるリスクが激増しました。また、違反には「厳格責任」が適用され、「知らなかった」では済まされません。

    質問3: 新設された「Red Flag 29」とは何ですか? 回答3: 輸出者が「取引先が規制対象者の関連会社かもしれない」と認識(または認識すべき)した場合、所有率が50%未満であることを積極的に確認する義務(確認できなければライセンス申請)を課すものです。これにより、企業には高度なデューデリジェンスが求められます。

    質問4: 日本企業は具体的に何をすればよいですか? 回答4: まず、従来のリスト照合だけの体制を見直す必要があります。取引先の最終的な実質的所有者(UBO)を特定できるスクリーニング体制の構築が急務です。また、契約書に所有構造の表明保証や変更通知義務、解除条項などを盛り込む見直しも必要です。

🎙️ 専門家の視点

特に注意すべきは、合算所有の扱いです。複数の規制対象者がそれぞれ10%ずつ所有していても、合計50%に達すれば規制対象となります。これは従来の調査手法では見落としがちであり、UBO調査ツールの導入や専門家によるデューデリジェンスが不可欠です。

著者情報

赤坂国際法律会計事務所
弁護士 角田進二

ご相談はこちらから