2025米中会談 希土類(レアアース)規制停止合意の罠
2025.10.30UP!
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2025年10月30日、米中首脳会談で関税の10ポイント削減が合意されました。しかし、この合意を手放しで喜ぶのは危険です。特に「希土類(レアアース)」規制については、米中間の認識に大きなズレが潜んでいます。
2025年米中首脳会談の合意内容
2025年10月30日、韓国・釜山で米中首脳会談が行われました。トランプ大統領と習近平国家主席は、米国による中国への既存関税を10ポイント削減(57%から47%へ)することで合意しました。この合意には、主に2つの柱があります。
① フェンタニール関連関税の半減
最も象徴的な削減は、フェンタニール関連関税の引き下げです。関税は20%から10%に半減されます。この10ポイントの削減が、全体的な関税引き下げの主要な部分を占めています。
トランプ大統領は、この削減の理由を説明しています。中国が「フェンタニールの流入を止めるために全力を尽くす」と約束した見返りだと述べました。
② 希土類(レアアース)規制停止の「温度差」
トランプ大統領は「希土類のすべて(世界)が解決」と主張しています。しかし、中国側の発表では、規制停止の対象は「米国限り」とも読み取れます。
メディアは「全世界」と報道しています。これはトランプ大統領の交渉に便乗したものでしょう。米国側は「エンティティリスト規制の1年停止」をカードとして使用しました。狙いは全世界の希土類規制停止を引き出すことです。
これに対し、中国側は限定的な主張をする可能性があります。「規制停止はアメリカのみ」「対象は10月の規制のみ」と主張するかもしれません。関連企業は、依然として中国の希土類規制の恐怖にさらされています。早急な準備が求められます。
【要警戒】地政学リスクが経営に与える影響
地政学は「政治の問題」であり、法律ではないとして見落とされがちです。しかし、これは不可抗力条項だけの問題ではありません。取引相手の選定においても、極めて重要な意味を持ちます。
杜撰な経営と見なされるリスク
このリスクを見落とした経営は「杜撰(ずさん)」と見なされます。これは株価に大きな影響を与える可能性があります。
「知らなかった」では済まされません。株主代表訴訟などの対象になるリスクも否定できません。
今後の契約・取引で必須となるスキル
今後は、2つの対策が必須となります。
① バッファー(緩衝材)を設けた契約内容へ見直すことが要請されます。
② さらに、取引相手が供給停止に陥る事態を見越さなければなりません。新たな投資や代替取引先を開拓するスキルが必須となります。
企業が今すぐ取るべき3つの対策
今回の合意を受け、日本企業が地政学リスクに備える必要があります。今すぐ実行すべき対策を3つにまとめました。
地政学リスクや不可抗力条項を再点検します。特に「供給元の政治的理由による停止」を想定してください。サプライヤは敵ではなく、協力し合う仲間として、議論を重ね、リスクを減らす手法を見出す必要があります。常に在庫を持ち、相手側に大きなリスクを転嫁することでは解決に至らないことを認識してください。
特定の国(特に中国)への依存度を再評価します。「希土類」のように代替が難しい品目があります。これらについて、代替の取引先や生産拠点の開拓(投資先)を早急に進めます。
米中両政府の公式発表(一次情報)を必ず確認します。報道を鵜呑みにしない体制を構築してください。専門家と連携し、リスクシナリオを常に最新化することが重要です。

[専門家のコメント]
「今回の希土類規制の『温度差』は、まさに地政学リスクの典型です。中国側が合意を限定的に解釈する場合があります。その場合、米国以外の企業(日本企業を含む)は、引き続き規制対象となる恐れがあります。」