英文開示の実務対応 第 80 回全株懇定時会員総会審議事項の紹介
2025.12.04UP!
- blog
- 2025年問題
- AI翻訳
- IR実務
- コーポレートガバナンス
- 全株懇
- 東証プライム
- 決算短信
- 英文開示

2025年4月から、東京証券取引所のプライム市場上場会社を対象に、決算情報および適時開示情報の日英同時開示が努力義務化されています。
「英語の壁があり、どう進めればよいか不安」「翻訳コストや手間が心配」と悩んでいる実務担当者の方も多いのではないでしょうか?
この点を踏まえて、第 80 回全株懇定時会員総会審議事項「英文開示の実務対応」は、株主総会資料を中心的な題材として英文開示の実務対応の進め方や実際の翻訳作業の流れ、その留意点等を解説する手引書であるが、企業行動規範への対応の観点から、その他の主な開示書類の英文開示に際して留意すべき事項もとりまとめています。
以下では同実務対応について、見た方が良い部分を取り纏めました。
英文開示が義務化される背景と「同時性」の重要性
なぜ今、英文開示が必須とされているのでしょうか。その背景には、日本企業の魅力が海外に十分に伝わっていないという課題があります。
「ジャパン・ディスカウント」を回避する
現在、日本株の売買シェアの60%以上は海外投資家が占めています。しかし、日本語のみの開示では情報が伝わらず、投資対象から除外されたり、リスクが高いとみなされて株価が割安に放置される「ジャパン・ディスカウント」の原因となっています。
「日英同時開示」が対話のスタートライン
海外投資家にとって最も重要なのは情報の「同時性」です。どんなに立派な翻訳でも、日本語版から数日遅れてしまっては価値が激減します。
完璧な英語を目指して遅れるよりも、要約や一部であっても「日本語と同時に」出すことが、公平な対話の第一歩となります。
実務担当者が押さえるべき3つのポイント
義務化対応を「単なる事務負担」と捉えず、企業価値向上のチャンスにするためには、以下の3つの視点が重要です。
① プレイン・ランゲージ(平易な英語)
難解な直訳や専門用語の羅列はNGです。ネイティブがストレスなく読める「平易・簡潔・明解」な英語(プレイン・イングリッシュ)を使いましょう。日本語の曖昧な行間を埋め、論理的に伝えることが大切です。
② コストではなく「投資」
英文開示にかかる費用はコストではありません。海外投資家との対話を深め、資本コストを低下させるための「投資」です。中長期的な企業価値向上に直結する戦略ツールと捉えましょう。
③ 完璧主義を捨てる
すべての書類を全文翻訳する必要はありません。投資家が重視する決算短信や適時開示情報(サマリー)にリソースを集中させ、メリハリのある開示を目指しましょう。
失敗しない英文開示の実践プロセス
限られたリソースで効率的に英文開示を進めるための具体的な手法を紹介します。
1. AIと機械翻訳の賢い活用
すべてを人力で翻訳するのは時間もコストもかかります。セキュリティが確保された有料版の機械翻訳(DeepL Proなど)や生成AIを活用しましょう。
⚠️ AI活用の注意点
- プリエディット(前編集): 日本語の主語を補うなど、AIが訳しやすい文章に直してから翻訳する。
- ポストエディット(後編集): 数字、固有名詞、肯定/否定の意味が逆になっていないか、必ず人間がチェックする。
2. 定型フォームと免責文言の利用
決算短信などは、東証が提供している英文開示様式例(テンプレート)を活用することで効率化できます。
また、誤訳による法的リスクを過度に恐れる必要はありません。「本資料は参考訳であり、日本語原文が優先する」といったディスクレイマー(免責文言)を明記することで、心理的なハードルを下げることができます。
3. 用語集(Glossary)の整備
社内固有の役職名や部署名、製品名などの英訳を統一した「用語集」を作成しましょう。これにより、担当者が変わっても表記揺れを防ぎ、翻訳品質を一定に保つことができます。
