赤坂国際会計事務所

アメリカのBIS 50%ルール:「1年執行停止」の誤解と日本企業の対応 エンティティリスト関連

2025.10.31UP!

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米国政府による「BIS 50%ルール」の「1年執行停止」という発表を受け、コンプライアンス対応を一時中断(または安堵)していませんか?

しかし、この発表は中国関連のみを対象とした「政治的判断」に過ぎません。ロシアやイランなど他の制裁対象国には、ルールがすでに完全適用されています

本記事では、このルールの法的な効力と「執行停止」の正確な範囲を解説します。さらに、TGL(一時許可)が失効する11月29日以降、日本企業が直面する新しいコンプライアンスリスクと、今すぐ取るべき3つの具体的な対応も紹介します。

背景:「BIS 50%ルール」とは何か

2025年9月30日、米国商務省産業安全保障局(BIS)は、「【Affiliates Rule】(通称:BIS 50%ルール)」官報(Federal Register: 90 FR 47201)で正式に公布しました。

これは、制裁対象リスト(Entity List・Military End User List・SDN Listなど)に掲載された企業が対象となる新ルールです。具体的には、その企業が50%以上保有する関連会社にも、同様の輸出制限が自動的に適用されます。

従来は「リストに明示的に記載された企業のみ」が規制対象でした。しかし、この改正により“リスト外でも制裁企業の傘下であれば自動的に規制対象” となりました。

BISはこれを「制裁逃れ(diversion)の抜け穴を塞ぐ目的」と説明しています。

発効日は 2025年9月29日。つまり、すでに法的には効力を持っています。

TGL(General Order No.7)──11月28日で失効する「一時的猶予」

発効と同時に、BISは「【Temporary General License(TGL)】=一般一時許可」を発出しました。

これは、友好国や非制裁国の企業が突然の規制適用を受けないようにする緩衝措置です。

TGLの内容は次のとおりです:

「リスト企業の50%以上所有下にある非リスト企業との特定取引を、一時的に許可する。」

有効期間は 2025年9月30日〜11月28日までのわずか2カ月間です。

11月29日以降は自動的に失効します。その結果、日本企業を含む全ての非制裁国企業にもルールが全面適用されることになります。

ベッセント財務長官の発表──「1年の執行停止」は限定的な政治判断

10月30日午前、スコット・ベッセント米財務長官は、「BIS 50%ルールの1年間の執行停止(suspension)」を発表しました。

しかし、これはあくまで“米中交渉の一環としての政治的合意”です。

米中双方はこの合意により、以下の内容で合意しました。

  • 中国側が希土類(レアアース)の輸出ライセンス制度を一時停止
  • 米国側が「中国関連企業」に限り、BISルールの執行を1年間停止

重要なのは、「法的停止」ではなく「運用上の停止」である点です。

ルールそのものは依然として有効です。そして、中国以外──とくにロシア、イラン、北朝鮮などの制裁対象国には引き続き完全適用されています。

よくある誤解:「ルール廃止」「1年猶予」という理解は誤り

一部メディアでは「BIS 50%ルールが1年間停止された」「発効が延期された」と報じられています。しかし、これは明確に誤りです。

【誤解①】法的効力について
  • よくある誤解: 発効が1年先延ばしされた。
  • 実際の状態: すでに2025年9月29日から発効済み。
【誤解②】TGL(一時許可)について
  • よくある誤解: 猶予期間が1年間続く。
  • 実際の状態: 11月28日で終了する一時許可。
【誤解③】執行停止(ベッセント発表)について
  • よくある誤解: すべての国・企業に適用停止。
  • 実際の状態: 中国関連のみ対象であり、政治的判断にすぎない。
【誤解④】ロシア等の扱いについて
  • よくある誤解: 一律に停止された。
  • 実際の状態: 完全適用継続中。

11月29日以降、日本企業が直面する「新しいコンプライアンス現実」

TGLが終了する11月29日以降、日本企業は新たな法的義務に直面します。

それは、自社・取引先の資本構造を50%ルールの観点から再点検するという義務です。

具体的には、以下の点を確認する必要があります:

  • 取引先企業の最終受益者(Ultimate Beneficial Owner)が制裁対象企業でないか
  • 合弁先・サプライヤーの間接所有関係(tier 2, tier 3)に該当しないか
  • 米国原産部品や技術を含む製品の再輸出がBIS制限に抵触しないか

これらの点を明確化しなければなりません。もし怠れば知らぬ間に「【Affiliates Rule】違反」と見なされるリスクがあります。

経営層への示唆:いま行うべき3つの対応

  1. サプライチェーンの資本関係マッピング
    全主要取引先の直接・間接株主構成を洗い出します。
    特に適用される国に関する事項、並びに中国・香港・UAE経由のスキームに注意してください。
  2. 輸出管理体制のアップデート
    社内コンプライアンスプログラム(ECP)に「【Affiliates Rule】」項目を追加します。
    そして、再輸出管理の範囲を再定義する必要があります。
  3. 政治判断に依存しないリスク管理
    「執行停止」を“緩和”と捉えてはいけません。
    むしろこの1年を「法令遵守体制の移行期間」と位置づけるべきです。

結論:安堵ではなく「備え」の一年に

ベッセント長官の発表は、“廃止”ではなく“執行猶予”に過ぎません。さらに、その適用は限定的かつ一時的です。

BIS 50%ルールはすでに発効しており、制度として生きています。

したがって、日本企業にとっては11月29日が実質的なスタートラインとなると言えるでしょう。

つまり、この1カ月間でどこまで備えを進められるかが重要です。それが、今後1年のコンプライアンスリスクと信用コストを決定づけることになるのです。

Q1. 「BIS 50%ルール」とは具体的に何ですか? A1. 米国の制裁リスト(Entity List等)掲載企業が50%以上保有する関連会社(非リスト企業)にも、自動的に輸出制限が適用される新ルールです。制裁逃れの抜け穴を防ぐ目的で導入され、2025年9月29日に発効しました。

Q2. 「1年執行停止」が発表されましたが、対応は不要ですか? A2. いいえ、対応は必須です。この「執行停止」は米中交渉の一環で中国関連企業に限定された政治的・運用上の判断に過ぎません。ロシアやイランなど他の制裁対象国にはルールが完全適用されています。

Q3. TGL(一時許可)とは何ですか?失効するとどうなりますか? A3. TGL(Temporary General License)は、企業が新ルールに適応するための一時的な緩衝措置で、2025年11月28日に失効します。失効後の11月29日以降は、日本企業もルールの全面適用対象となり、違反リスクに直面します。

Q4. 日本企業が11月29日以降にすべきことは何ですか? A4. まず、全取引先の資本構造(最終受益者や間接所有関係)を50%ルールの観点から再点検し、制裁対象企業の傘下にないか確認が必須です。また、社内の輸出管理コンプライアンスプログラム(ECP)を本ルールに合わせてアップデートする必要があります。

著者情報

赤坂国際法律会計事務所
弁護士 角田進二

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