赤坂国際会計事務所

経営・管理ビザガイド:2025年改正と実務解説1

2025.11.10

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最終更新:2025年11月 | 【出入国在留管理庁】ガイドライン準拠

はじめに: 在留資格「経営・管理」の重要性

外国人が日本で事業を起こす、または経営に参画する際に「経営・管理」の在留資格が必要です。しかし、その要件は複雑です。特に「事業所の確保」「財務状況による継続性判断」「複数外国人による共同経営」の3点で、申請者が誤解しやすいポイントが多数存在します。 本記事では、出入国在留管理庁が公表しているガイドラインを実務的な視点から解説します。具体的なケーススタディとチェックリストも提供します。

在留資格「経営・管理」の事業所要件(Part 1)

結論から言うと、バーチャルオフィスや短期賃貸スペースは、事業所として認められません。事業所として入管が認めるには、日本標準産業分類の定義に基づき、以下の2つの条件を両方満たす必要があります。

  • 一定の場所の占有: 単一経営主体による一区画の確保
  • 継続的な事業活動: 人員・設備を有する継続的な生産・サービス提供

❌ 入管が認めない事業所の事例

以下の形態は、原則として在留資格「経営・管理」の要件を満たしません。

形態: 月単位の短期賃貸スペース 理由: 継続性の要件を満たさないため
形態: シェアオフィスの登記のみ利用 理由: 実質的な占有がないため
形態: 移動式屋台 理由: 一定の場所の要件を満たさないため
形態: バーチャルオフィス(住所貸しのみ) 理由: 実体のある事業所ではないため

✅ 賃貸物件を利用する場合の必須条件

  • 使用目的の明記: 賃貸借契約書に「事業用」「店舗」「事務所」等の記載
  • 契約者名義: 法人名義または代表者個人名義(個人事業の場合)
  • 実際の使用: 書類上の契約だけでなく、実際に事業活動を行っている証明

⭐ 例外:インキュベーターオフィスの特例

以下のケースでは、例外的に事業所として認められる場合があります。 認められるケース:

  • JETRO対日投資ビジネスサポートセンター(IBSC)
  • 自治体や政府系機関が運営する起業支援オフィス
  • 正式なインキュベーションプログラムの一環として提供される一時的オフィス

条件:

    • インキュベーターからの「使用承諾書」の提出
  • 起業支援を目的とした一時的貸与であることの証明

実務アドバイス

起業初期でコスト削減のためシェアオフィスを検討する場合は、「登記のみ」プランではなく、専用デスクを含む実体的な利用契約を締結してください。審査では、実際に事業活動が行われているかが重視されます。

審査官は契約書だけでなく、オフィスの写真や間取り図も確認します。個室でない場合は、パーテーション等で明確に区画が分かれていることを示せるように準備してください。

在留資格「経営・管理」と共同経営(Part 2)

結論として、複数の外国人が共同経営者として「経営・管理」ビザを取得することは可能です。ただし、「役員に就任すれば自動的にビザが取れる」というのは誤りです。全員が許可されるには、実質的な経営参画と以下の3つの条件が必要です。

① 合理性: 複数人が必要な事業規模か

審査のポイント:

  • 事業の規模・業務量・売上高
  • 各役員が担当する業務の専門性

具体例:

  • ✅ IT企業で「技術担当CTO」と「営業担当COO」が明確に分離
  • ✅ 飲食チェーン展開で店舗管理を分担する必要性
  • ❌ 売上500万円の小規模事業に3名の「代表取締役」

② 業務の明確化: 各自の役割が具体的か

提出が必要な資料:

  • 組織図と各役員の担当領域
  • 職務分掌規程
  • 取締役会議事録(意思決定への関与の証明)

NGパターン:

  • 「共同代表」だが実際の業務内容が不明確
  • 名目上の役員で、実質的な決裁権限がない

③ 報酬の支払い: 経営者としての対価

基準:

  • 各役員に対して月額での報酬支払い
  • 金額は業務量・責任に見合った水準

注意点:

  • 無報酬や著しく低額(月額10万円未満等)の場合、実質的な経営参画が疑われます
  • 成果報酬のみ(固定給なし)も不適切と判断されるリスクがあります

ケーススタディ: 共同創業の判断事例

AI開発スタートアップ、資本金1000万円、従業員5名

  • 創業者A(米国籍): CEO、技術開発・製品戦略 → 月額50万円
  • 創業者B(インド籍): CTO、エンジニアリング統括 → 月額50万円

判断: 技術と経営で明確な役割分担があり、報酬も適切です。 → ✅両名とも許可の可能性が高いと判断されます。

在留資格「経営・管理」の更新と財務状況(Part 3)

はい、赤字決算でも「経営・管理」ビザの更新が許可される可能性は十分にあります。「赤字=即不許可」ではありません。入管は直近2期分の決算書を見て、事業継続の見込みを総合的に判断します。

📊 判断フローチャート

直近2期のどちらかで売上総利益があるか? │ ├─ YES → 【パターンA群】へ │ └─ NO → 【パターンB】2期連続で売上総利益なし └→ 原則不許可 (新興企業は例外あり)

【パターンA-1】直近期末に欠損金がない

✅ 更新可能なケース

  • 直近期に当期純利益があり、剰余金がある
  • 直近期に当期純損失でも、剰余金が残っている(欠損金が発生していない)

必要書類: 通常の決算書のみ 実例:

  • 前期: 純利益500万円、剰余金1000万円
  • 直近期: 純損失200万円、剰余金800万円
  • → ✅ 問題なし(売上総利益があり、欠損金未発生)

【パターンA-2】直近期末に欠損金がある

(ⅰ) 債務超過ではない場合

判断: 原則として継続性ありと判断されます。 追加提出書類:

  • 今後1年間の事業計画書
  • 予想収支計算書

注意: 内容によっては中小企業診断士・公認会計士の評価書を追加で求められる場合があります。

(ⅱ) 債務超過だが、1年前は債務超過ではなかった

判断: 条件付きで継続性を認めます。 必須提出書類:

  • 中小企業診断士・公認会計士の評価書
    • 「1年以内に債務超過が解消される見通し」を含む
    • 評価の根拠となる理由の記載必須

実例:

  • 前期末: 資産1億円、負債8000万円(純資産2000万円)
  • 直近期末: 資産8000万円、負債9000万円(▲1000万円)
  • → 評価書により「設備投資の回収により1年以内に改善」が認められれば可能性はある✅

(ⅲ) 2期連続で債務超過

原則: 継続性なし → ❌更新不可 例外: 新興企業(設立5年以内)の特例 以下の3点セットを提出すれば、柔軟に判断する可能性があります。

  1. 専門家評価書 (中小企業診断士・公認会計士)
    • 1年以内の改善見通しを含む
  2. 資金調達の証明書類
    • VC・エンジェル投資家からの出資契約
    • 銀行融資の契約書
    • NEDO・JSTなど公的補助金の交付決定通知
    • ※手元流動性が十分な場合は、その状況を示す資料
  3. 成長への取組み証明
    • 製品開発のマイルストーン達成状況
    • 顧客獲得実績(契約書・LOI等)
    • 特許出願・技術評価の資料

成功事例: バイオテック企業(設立3年目)、2期連続債務超過(累積▲5000万円)

  • VCから3億円の資金調達完了
  • 新薬候補の前臨床試験成功
  • 大手製薬会社との共同研究契約締結
  • → ✅「合理的な理由」が認められ更新許可の可能性

【パターンB】2期連続で売上総利益なし

原則: 継続性なし → ❌更新不可 理由: 本業で稼げていない(=企業として機能していない)と判断されます。 例外: 新興企業の特例 パターンA-2(ⅲ)と同じ「3点セット」の提出により、柔軟判断の可能性があります。 典型例:

  • AI研究開発企業で製品化前(売上ゼロ)
  • 大学発ベンチャーで臨床試験段階

💡 実務上の重要ポイント: 用語の理解

審査で使われる用語を正確に理解しておきましょう。

売上総利益
売上高 − 売上原価(粗利)
剰余金
資本剰余金 + 利益剰余金(利益準備金を含む)
欠損金
繰越損失
債務超過
負債 > 資産 (貸借対照表で純資産がマイナス)
「直近期」の定義
申請時点で決算が確定している最新の期。決算後すぐに申請する場合、会計監査・株主総会承認が完了していることが前提です。

在留資格「経営・管理」とコンプライアンス(Part 4)

「経営・管理」の在留資格審査では、財務状況だけでなく、事業者としての法令遵守(コンプライアンス)も厳格に審査します。

✅ 税務関係のチェックリスト

  • 法人税・所得税の納付済み
  • 消費税の納付済み
  • 源泉徴収税の納付済み
  • 住民税・事業税の納付済み

⚠️ 特に注意:

  • 消費税の不正還付で重加算税 → 極めて消極的評価(ほぼ不許可)
  • 高額・長期の滞納 → 刑事罰の有無に関わらず不許可リスク

✅ 労働・社会保険関係のチェックリスト

労働条件の適正性

  • 労働契約書の整備
  • 最低賃金の遵守
  • 労働時間・休日の法定基準遵守
  • 外国人従業員の就労資格確認

労働保険

  • 労災保険の加入(従業員1名以上)
  • 雇用保険の加入(条件を満たす従業員)
  • 保険料の納付

社会保険

  • 健康保険・厚生年金保険の適用事業所届出
  • 従業員の資格取得手続
  • 保険料の納付

実務上のトラブル事例:

  • アルバイト従業員の社会保険未加入 → 更新時に指摘され、遡及加入を求められます
  • 役員報酬を支払っていないのに社会保険未加入 → 「実質的な経営者ではない」と判断されるリスク

在留資格「経営・管理」と資金調達(Part 5)

2025年の改正により、スタートアップの資金調達手法であるJ-KISS型新株予約権等が、一定条件下で資本金「3000万円要件」にカウント可能になりました。

認められる条件 (両方必須)

  1. 返済義務のない払込金であること
    • 借入金や転換社債型(CB)は不可
  2. 将来の資本金計上が確約されていること
    • 権利行失されれば資本金に
    • 失効すれば利益として計上
    • いずれの場合も資本金として扱う旨の誓約

必要書類

① 投資契約書
J-KISS型新株予約権契約書等の原本
② 払込証明
通帳コピーまたは取引明細書
③ 誓約書
将来の権利行使時に資本金計上する旨の代表者による誓約
その他
その他必要な書面を求める場合があります。

実例: J-KISS型新株予約権の活用

シード期スタートアップの資金調達

  • 資本金: 300万円 (創業者出資)
  • J-KISS型新株予約権発行: 2700万円 (エンジェル投資家)
  • 合計: 3000万円

申請のポイント:

  • 投資契約書で「将来の株式転換」が明記されている
  • 払込金2700万円が実際に入金されている証明
  • 「転換時または失効時に資本金計上する」旨の取締役会決議+誓約書

→ ✅「3000万円要件」を満たすと判断されます。

まとめ: 申請前の最終チェックポイント

新規申請(日本で起業する場合)

  • 事業所: 実体のある賃貸契約(月単位の短期ではない)
  • 資本金: 3000万円以上、または常勤従業員1名以上確保(※2025年改正)
  • 事業計画: 実現可能性のある具体的プラン(※専門家の確認必須)
  • 経営参画: 実質的な意思決定権限があるか
  • 経歴: 経営管理の学位または3年以上の実務経験(※2025年改正)
  • 日本語能力: 申請者または常勤職員がN2相当以上(※2025年改正)

更新申請(既に在留中の場合)

  • 財務: 直近2期の決算状況を上記フローで確認
  • 税務: 全ての納税義務を履行済み
  • 労務: 社会保険・労働保険の加入・納付済み
  • 事業実態: 登記住所で実際に事業活動を行っている

Q1: 個人事業主でも「経営・管理」ビザは取得できますか? A: 可能です。ただし、法人と同様に、事業所の要件(賃貸契約で事業用明記)、3000万円要件、継続性の要件はすべて適用されます。立証の難度は高くおすすめはしません。2025年改正により、申請者または常勤職員の日本語能力(N2相当)、申請者の経歴要件(学位または実務経験)、専門家による事業計画書の確認が必須となりました。

Q2: 共同創業で一方が日本人、もう一方が外国人の場合は? A: 外国人の役割が「実質的な経営参画」であれば許可されます。ただし、日本人が実質的経営者で外国人が名目上の役員の場合は不許可となります。

Q3: 赤字でも更新できると聞きましたが、何年まで大丈夫ですか? A: 期限について明確な基準はありません。上記フローチャートに従い、売上総利益の有無、債務超過の状況、新興企業か否かで入管が個別判断します。

Q4: 中小企業診断士や公認会計士の評価書は必ず必要ですか? A: 債務超過の場合は必須です。債務超過でなくても、事業計画の内容次第で追加提出を求められることがあります。2025年改正により、新規申請時の事業計画書には専門家の確認が必須となりました。

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著者情報

赤坂国際法律会計事務所 弁護士 角田進二

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