赤坂国際会計事務所

【消費者庁調査】ECの「ダークパターン」規制リスクと改善実務

2025.12.03UP!

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『いわゆる「ダークパターン」に関する取引の実態調査』 – 要約

消費者庁の研究チームは、デジタル市場における「ダークパターン」の実態調査を行いました。消費者を不利な決定へ誘導するこの手法は世界的に問題視されていますが、国内の実態はこれまで不明確でした。

本記事では、売上上位サイトの調査から見えた「消費者が直面しているデジタルの罠」を可視化し、EC事業者が今後備えるべき法規制のポイントと具体的な改善策を解説します。

この記事の重要ポイント

ターゲット
ECサイト運営者、Webデザイナー、法務担当者
課題
UI/UXによる消費者誘導と法規制の境界線が曖昧
解決策
8つのダークパターン分類と具体的な改善指針

核心:なぜ今「ダークパターン」が問題なのか?

問題意識

消費生活相談(PIO-NET)に寄せられる情報は氷山の一角に過ぎません。ダークパターンの中には、消費者が「誘導されたこと」にすら気づかない巧妙なものも多く、通常のマーケティングと不当な操作の境界線が曖昧だからです。

EC運営に携わる方は、今後どのようなUIが規制対象となり得るのか、先回りして理解しておく必要があります。

中心メッセージ

「ダークパターンは、単一の手法だけでなく『組み合わせ』によって消費者の自律性を奪っている。新たな判断基準の客観化・標準化が急務である。」

消費者庁は「騙される方が悪い」とは考えません。事業者がデザインを通じて消費者の認知バイアスを利用し、意図しない行動(購入、登録など)を強制している実態を問題視しています。

[専門家のコメント]
行動経済学や心理学的な視点から、ECの躍進は著しいものになっております。しかし、同時に、BNPL(バイナウペイレイター)などは多くの問題を引き起こし、どのように規制するかを考える時期に来ています。少なくても消費者とEC業者が争うことで、消費者を疲弊させることに繋がることは好ましいものではありません。

思考フレームワーク:消費者庁の分析視点

消費者庁は、以下の「実証的かつ分類学的」なアプローチで調査を行いました。

  • OECD基準 + 日本独自の視点:世界基準に「みなし同意」など日本の商慣習を加味。
  • インターフェイスへの着目:商品の欠陥ではなく「画面設計(UI)」による意思決定の歪みを観察。
  • 意図と結果の分離:事業者の悪意(意図)ではなく、消費者の誤認や不利益(結果)を重視。

判断基準・価値観

以下の4つの軸で「良いデザイン」か「ダークパターン」かを判断します。

  • 自主性の尊重:消費者が自由に選択できるか。
  • 透明性:重要な情報が適切なタイミングで表示されているか。
  • 公平性:契約は簡単なのに解約だけ極端に難しい等の非対称性がないか。
  • マーケティングとの境界:魅力的な提案を超えて「操作」していないか。

調査結果:主なダークパターンの8分類

本報告書で定義された主要な分類と手口を解説します。自社サイトに該当箇所がないか確認してください。

1. 行為の強制(Forced Action)

概要:消費者に対し、望まない行動を無理やり強いるデザイン。

  • 強制登録:購入に必須ではない会員登録を強制する。「登録せずに購入」ボタンを隠すなど。
  • 強制的情報開示:発送に不要な性別や生年月日の入力を必須にする。

2. インターフェイス干渉(Interface Interference)

概要:画面設計を操作し、特定の選択肢を選ばせやすくする。

  • 隠された情報:解約条件や定期縛りをアコーディオンパネル内などに隠す。
  • 偽りの階層表示:「定期購入」を大きく鮮やかに、「単品購入」を目立たないグレーで表示し誘導する。
  • 事前選択:メルマガや高額プランのチェックボックスにあらかじめチェックを入れておく(※最も多く検出された手法)。

3. 執拗な繰り返し(Nagging)

概要:消費者が拒否しても繰り返し要求し、根負けさせる。

  • 画面遷移のたびに会員登録ポップアップを表示したり、購入ボタンがスクロールに追従してくる事例など。

4. 妨害(Obstruction)

概要:消費者にとって望ましい選択(解約など)を困難にする。

  • キャンセル困難(ローチ・モーテル):Webで入会できるのに退会は電話のみ、退会ボタンが見つからないなど。

5. こっそり(Sneaking)

概要:消費者の注意が逸れている隙にコストや内容を変更する。

  • 隠れたコスト:決済直前の画面で初めて送料や手数料を加算する。
  • 隠れ定期購入:「お試し価格」と思わせて、実は定期契約であることを小さく表示する。

6. 社会的証明(Social Proof)

概要:他者の行動を利用して同調圧力をかける。

  • 「※画像はイメージです」と書かれた偽のレビューや、PCとスマホで別人の名前になっている使い回しの口コミなど。

7. 緊急性(Urgency)

概要:時間や数量の限定を強調し、冷静な判断を阻害する。

  • 毎日リセットされるカウントダウンタイマーなどの「偽の緊急性」。

8. 日本独自・その他の事例

  • みなし同意:「次へ」を押すだけで規約や第三者提供に同意したとみなす。
  • 未成年者の法定代理人同意確認:未成年者取消権を封じるための形式的なチェックボックス。

重要キーワード・概念

  • ダークパターン(Dark Patterns): 消費者の認知バイアスなどを利用し、意図しない行動を取らせるように設計されたユーザーインターフェイスのこと。
  • 偽りの階層表示(False Hierarchy): 特定の選択肢(事業者有利なもの)を視覚的に強調し、他の選択肢を見つけにくく、あるいは選びにくくするデザイン。
  • 事前選択(Preselection): チェックボックス等で、あらかじめ特定の選択肢を選んだ状態にしておき、消費者の不作為を利用して誘導する手法。
  • ローチ・モーテル(Roach Motel / キャンセル困難): 「入るのは簡単だが、出るのは難しい」デザイン。解約手続きを意図的に複雑にすること。
  • みなし同意(Implicit Consent): 明確な同意ボタンを押さなくても、サイトの利用や購入ボタンのクリックをもって、規約やポリシーに同意したとみなすこと。
  • 社会的証明(Social Proof): 「みんなが買っている」「人気がある」といった情報を提示し、消費者の同調心理を刺激する手法。虚偽の場合はダークパターンとなる。
[専門家のコメント]
以上の手法は、消費者とトラブルになりやすいことを理解して、積極的にそれを選択するかを決める必要があります。人間の脳内は、多数の選択をするエネルギーはなく、誘導は必要な部分はありますが、業者にとってのみ有利なものは容易に無効になる恐れがあります。

実践的な提言:事業者はどう対応すべきか

消費者庁の調査結果を踏まえ、EC事業者が直ちに取り組むべき改善アクションは以下の通りです。

①「事前選択」をやめる

メルマガ受信や定期購入オプションをデフォルトで「ON」にすることは避けましょう。消費者に能動的に選ばせることが基本です。ただし、ユーザーの利便性を損なわないよう、重要度の高い選択に絞る配慮も必要です。

② 重要な情報は「隠さない」

解約条件や総支払額は、申込の最終段階ではなく早い段階で、かつ視認しやすい大きさで表示してください。「詳細はこちら」で隠すのはリスクとなります。

③ 解約を「入り口」と同じくらい簡単にする

「Webで入会、Webで退会」が原則です。電話のみの受付や、過度な引き留めページは「妨害」とみなされる可能性があります。

④ 法適用の厳格化に備える

今後は以下の法令の適用が厳格化されると予測されます。

  • 【景品表示法】(優良誤認・有利誤認)
  • 【特定商取引法】(誇大広告・解除妨害)
  • 【消費者契約法】
  • 【個人情報保護法】

まとめ:まず何から始めるべきか

自社サイトのデザインを見直す際は、以下の質問を投げかけてみてください。

  1. その画面デザインによって、消費者は誤認する可能性がありますか?
  2. 消費者はその選択肢を自ら能動的に選びましたか?
  3. 「No.1」や「期間限定」の表示に客観的な根拠はありますか?
  4. 解約手続きは、契約手続きと同程度の容易さですか?

ダークパターンの使用は、一時的なCVR(コンバージョン率)向上をもたらすかもしれませんが、長期的にはブランドの信頼を毀損し、法的リスクを高めるだけです。ユーザーファーストなUIへの転換をおすすめします。

参考リンク:消費者庁「ダークパターンに関する取引の実態調査」

Q1:ダークパターンとは簡単に言うと何ですか? A1: 消費者の認知バイアスを利用し、意図しない行動(購入や登録など)を取らせるよう設計されたWebデザインのことです。消費者庁は「自律性・透明性・公平性」を欠くものを問題視しており、単なるマーケティング手法とは区別されます。詐欺的な意図がなくても、結果的に消費者が誤認すれば規制対象となり得ます。

Q2:「No.1」や「期間限定」の表示は違法になりますか? A2: 客観的な調査に基づかない「No.1」表記や、実際には期間終了後も販売を続ける「偽のカウントダウン」はダークパターン(社会的証明・緊急性の悪用)に該当します。これらは景品表示法の「優良誤認表示」や「有利誤認表示」として法的処分の対象となるリスクが高いため、根拠のない表示は避けるべきです。

Q3:解約手続きを電話のみにするのは問題ありますか? A3: Webで簡単に契約できるのに解約は電話のみとする設計は「妨害(ローチ・モーテル)」というダークパターンに分類されます。消費者契約法や特商法等の観点から、解約のハードルを不当に高くしていると判断される可能性があります。「Webで入会、Webで退会」という対称性を保つことが推奨されます。

Q4:注文画面であらかじめメルマガ登録にチェックを入れておくのは? A4: それは「事前選択(Preselection)」と呼ばれる典型的なダークパターンです。消費者の不作為(チェックを外さないこと)を利用して同意させたとみなされる恐れがあります。日本の個人情報保護法や特商法の解釈においても、現在はユーザー自身が能動的にチェックを入れる「オプトイン方式」が強く求められています。

著者情報

赤坂国際法律会計事務所
弁護士 角田進二(Shinji SUMIDA)

 

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