赤坂国際会計事務所

AI音楽の著作権:グレー利益モデルの法的・経済的構造

2025.11.03UP!

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生成AIによる音楽制作は急速に進化しています。「AIカバー曲がYouTubeに増えているけれど、著作権は大丈夫?」と疑問に思う方も多いでしょう。

この記事では、AI音楽と著作権の問題、特にYouTubeなどで見られる「グレー利益モデル」について、法的・制度的・経済的な三層構造からその実態を解説します。最後まで読めば、AI音楽の法的リスクとプラットフォームの仕組みが理解できます。

現在の主流ツールにはAIVA・SOUNDRAW・Mubert・Suno・Udioの5つが挙げられます

最近、YouTubeでは「ZARD「負けないで」をファンク&ソウル風にアレンジ!」といった動画が見られます。概要欄には「本動画はYouTubeのカバーソングおよびリミックスに関するポリシーを遵守しています。」と記載されているケースがあります。

しかし、これは明らかな依拠性(元の曲を基にしていること)が認められる案件であり、AIと著作権の一つの大きな問題点を示しています。

法的構造:AIカバーと翻案権侵害の基準

結論:AIカバーは、原曲の特徴を感得できれば「翻案権」侵害の可能性があります。

AIがZARD「負けないで」のカバーのように、メロディやコード進行、歌詞を再構成する行為は、日本法上「翻案権」の侵害にあたる可能性があります。

過去の判例(最判平成一三年「江差追分事件」)では、翻案権侵害の判断は「表現上の本質的な特徴を直接感得できるか」に基づいています。なお、単なる“作風の模倣”は侵害から除外されます。

「YouTubeのポリシー遵守」という表記は、著作権法上の免責にはなりません。もちろん、原曲の特徴を感得できないレベルまで創作性が加えられていれば話は別ですが、それは個別の作品ごとに判断される問題です。

単にオマージュと表示するだけでは、法的なハードルは越えられません。AIによるパラメータ設計や人間による後編集で独自の著作物性が認められる余地はありますが、それは元の著作権が消えるわけではなく、併存する状況に過ぎません。

プラットフォーム構造:YouTubeの「実効的免責」モデル

結論:YouTubeの「Content ID」は、法的な適法性ではなく、事後的な経済調整の仕組みです。

YouTubeの「Content ID」システムは、著作権者、利用者、プラットフォームの三者間で、法的リスクを経済的に分配する仕組みです。

著作権者が楽曲データを登録しておくと、AIカバー動画がアップロードされた際に自動検出され、その動画の広告収益が自動的に著作権者へ分配されます。これは形式上「黙示のライセンス(暗黙の許諾)」のように機能しますが、事後的な経済調整に過ぎません。

つまり、「ポリシー遵守」という表記は、YouTubeというプラットフォーム内部での収益分配ルールに従っていることを示すだけであり、それが【著作権法】上で適法であることとは一致しないのです。

この「アップロード → 検出 → 収益転送」というモデルは、著作権法秩序とは別の“プラットフォーム内法”として機能しています。この仕組みは、「申し出なければ(AIカバー制作者が)収益をもらい続け、申し出れば(著作権者が)分配される」という経済的インセンティブを内包しています。

経済構造:「グレー利益モデル」の蔓延と制度的飽和

結論:現状の仕組みは「先に出した者勝ち」を許容しており、AI生成物の爆発的増加で飽和しつつあります。

この構造は、音楽プラットフォームの黎明期に見られた「黙示許諾文化」と似ています。法的にグレーな領域を放置しつつ、プラットフォーム側は訴訟リスクを回避しながら市場を先行して形成しようとします。

各ステークホルダー(利害関係者)の思惑は以下の通りです。

  • クリエイター(利用者):“先に出した者勝ち”で収益を得る。
  • 著作権者:発見・申請コストの高さから放置する(または早期に発見し収益分配を申し立てる)。
  • YouTube(PF側):収益分配システムで当事者間の紛争を経済的に解決し、訴訟リスクを回避する。

この三者の利害が均衡することで、グレーな状態が維持されます。しかし、AI生成物の爆発的な増加は、この仕組みの「制度的飽和」を引き起こします。具体的には、以下の問題が加速します。

① 権利主張の遅延
② 許諾済みか未許諾かの判別困難(量が多いため)
③ AIの学習段階と出力段階での二重の侵害リスク

制度的仮説:スマートライセンスと文化的共進化

結論:AI時代の著作権問題は、「分配ルールを技術的に埋め込む」ことで解決に向かう可能性があります。

「申し出なければもらい続ける」というグレーな構造への対抗策は、「分配ルールを技術的に埋め込む」ことです。これにより、以下の三層構造が実現可能になります。

  • ① AIタグ付けによる生成物の識別
  • ② 包括契約による事前処理
  • ③ スマート分配(ブロックチェーン等)による即時精算

大事なのは、著作権者自身が明確な指針を示すことです。

今後五年で、AIが単独で生成するのではなく、「AI+人間による編集」というハイブリッドモデルが主流になるでしょう。

生成AI音楽をハレーション(悪影響)なく拡張する鍵は、①技術的透明化(AIタグ)、②自動ライセンス分配、③文化的共進化、の三要素となります。

まとめ

単なるオマージュによる「ただ乗り」に関しては、まず①のAIタグ等により収益分配の通知が早期になされるようにし、違反者のインセンティブを削ぐことから始めるべきです。

もし著作権者が②の自動ライセンス分配に同意した場合、作品はAIによってさらに拡散される機能を持つため、著作権者にとっても望ましい結果となる可能性があります。

過去の作品と異なり、生成AIの海の中では、新作は加速的に埋もれていきます。埋もれることを避けるために、著作権者は必然的に②の自動分配を選択し、それが「文化的共進化」として機能していく未来が想定されます。

要は、著作権使用料以外の収益確保(例:ファンコミュニティ運営、限定ライブ)と、新たな顧客体験の提供を含めた、著作権者側の工夫が今後ますます要求されることになるでしょう。

著者情報

赤坂国際法律会計事務所
弁護士 角田進二

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