赤坂国際会計事務所

DoDのAnthropic排除とAIサプライチェーンリスク

2026.03.02UP!

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米国防総省(DoD)が、AI大手Anthropicを「サプライチェーン・リスク」に指定するという異例の事態が発生しました。これにより、DoD関連の連邦政府機関ではClaudeの利用が停止され、取引企業にも多大な影響が及ぶことが予想されます。本記事では、この措置が単なる技術的リスクではなく、AIの「国家統制」という新たなフェーズへの移行であることを解説します。読者の皆様は、自社のAIサプライチェーンにおける地政学的リスクを把握し、具体的な対策を講じるための知見を得られます。

1. 全体像:Anthropic排除で何が起きているのか

結論から述べると、今回の措置は「安全保障上の供給網リスク」という名目を借りた、契約条件を巡る国家と民間の対立です。主な事象は以下の4点に集約されます。

  • ① 連邦政府機関におけるAnthropic製品の利用停止
  • ② DoD取引企業への「Claude不使用」の証明要求リスク
  • ③ 6か月間の移行期間の設定
  • ④ 非協力的な場合の大統領権限による強制措置

Anthropic側は、この決定に対し法的に争う姿勢を鮮明にしています。

2. 制度構造のポイント:【10 U.S.C. §3252】と【DFARS】

本来、SCRM(供給網リスク管理)は敵対勢力によるバックドア設置などを防ぐための制度です。

【SCRMの本来の想定対象】

  • 中国など敵対勢力の関連企業
  • 改ざん・監視リスクのある供給者

【権限の射程】

  • DoD調達における当該製品の排除
  • 「covered system」向けICTの制限

今回の措置の特異性

今回、Anthropicに技術的改ざんのリスクは指摘されていません。真の原因は「AI利用のガードレール(倫理規定)に関する交渉決裂」にあります。これは、安全保障上の制度が、民間企業との契約条件交渉の「武器」として転用された疑いを示唆しています。

3. 争点:2つのガードレールと「国家の論理」

Anthropicが死守しようとしたのは、以下の2つの禁止事項です。

  1. ① 大規模な国内監視へのAI利用禁止
  2. ② 完全自律型致死兵器へのAI利用禁止

これに対し、DoD側は「あらゆる合法用途(all lawful purposes)」への開放を要求しました。ここには「責任は国家が負うが、決定権も国家が持つべき」という強い思想があります。

4. 法的争点:想定される3つの柱

Anthropicによる訴訟では、以下の3点が主な争点になると予想されます。

① 権限逸脱:DoD契約外の商用活動まで制限するのは法の射程外ではないか。
② 手続違反:適切なリスク評価や、より影響の少ない手段の検討が行われたか。
③ 目的外使用:敵対勢力対策の制度を、契約紛争の解決に使うのは趣旨逸脱ではないか。

5. 実務的影響:事実上の市場排除(de facto ban)

最も深刻なのは、法理よりも「実務への波及」です。DoDと取引する企業は、将来の契約を維持するために「Anthropic不使用」を選択せざるを得ません。その結果、法的な強制力を超えたAI利用の「毒性化(toxic化)」が進み、事実上の市場排除が起こるリスクがあります。

6. 構造的含意:AIの「準軍需化」

今回の事件は、AI基盤モデルが核技術や半導体と同様の「戦略資産」へと昇格したことを象徴しています。AI企業は今後、単なるテック企業から、国家のコントロールを受ける「準軍需企業」へと変貌を遂げていくでしょう。

テック企業 ⇒ 準軍需企業への変質

著者情報

赤坂国際法律会計事務所

弁護士 角田進二(Shinji SUMIDA)

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