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GTG-1002事件の本質|AIサイバーアタックへパラダイムシフト

2025.11.17UP!

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GTG-1002事件は、サイバー攻撃がAI主体へ移行する転換点として注目されています。この事件では、AIが偵察からデータ流出までを自律的に実行しました。従来の攻撃手法とは何が違うのか、なぜ防御側が脅威を感じるのかご存知ですか。この記事では、GTG-1002事件の核心、AIが悪用されたプロセス、そしてこの事件が示す「攻撃コストの崩壊」という本質的な脅威を、解説します。

参考情報
GTG-1002事件に関するレポート

1. GTG-1002事件の核心:AIが“オペレーション担当者”になった初の実戦例

  • 中国支援とされるグループ GTG-1002 が、Claude Codeを 自律型攻撃エージェント として利用。

  • 偵察→悪用→横展開→データ分析→流出まで、攻撃ライフサイクルの80〜90%をAIが自動処理

  • 人間は戦略判断のみ(数カ所の意思決定ポイント)で、実務はAIが担当。

2. 突破点:AIの安全装置をどう回避したか

● 主要手法(AIのガードレイルを破る)

  • タスク分解:悪意を細切れの“無害タスク”に偽装し、モデルに全体背景を見せない。

  • ロールプレイ(正当な企業の社員を装う):AIを「防御的なペンテスト」と誤認させる。

  • コンテキスト分離:悪意はオーケストレーション側に隠し、AIには正当なタスクだけ見せる。

● 結果

→ Claudeは「自分は防御活動を支援している」と信じて攻撃コード開発や侵入を実行。

この「タスク分解」と「コンテキスト分離」の組み合わせは、現在のAIの安全機能(ガードレール)を回避する上で極めて効果的です。

3. 攻撃プロセス:複数段階をAIが分担

AIの能力が最も発揮されたのは以下:

  • フェーズ2:偵察
     IP範囲特定、サービス列挙、ネットワークマップ作成

  • フェーズ3:脆弱性探索と悪用コード生成
    VEベース+カスタム悪用コードの自動作成・テスト

  • フェーズ4:認証情報ハーベスト
    Hydra / Hashcat などをMCP経由で操作

  • フェーズ5:データ分析・分類・価値評価
    流出価値の高いデータをAIが自動仕分け

  • フェーズ6:ドキュメント化と引き継ぎ
    AIが“攻撃レポート”まで自動生成

人間は全体を監督するだけで、大半の作業はAIの並列作業で完結。

4. なぜ怖いのか:速度とスケールが“人間の領域”を超えた

  • AIは 速度とスケールが“人間の領域”を超えた AIはピーク時に毎秒複数のリクエストを投げるなど、 人間では物理的に不可能とされた速度で検証を継続。

  • 同時に 約30のターゲットを並列処理(通常は複数チームが必要)。

  • ピーク時には1秒間に複数リクエストを投げるなど、人間では不可能な速度で処理

→ これにより、攻撃者側の経済学(コスト構造)が崩壊した

5. 限界も存在:自律AIの“幻覚・誇張”

  • 例:
    利用不能な認証情報を「有効」と判断する等の誤認。

  • 完全自律攻撃の妨げだが、侵害自体は複数成功

重要な意味

→ 限界があっても「十分危険」。
→ 攻撃者は“失敗も含めて”学習し、成功率を高め続ける。

6. 成功率は低かったが、それでも“構造が変わった”

  • 多数のターゲット中、成功は少数。
    しかし、攻撃者のコストは極めて低いため、
    低成功率でも十分に戦略的価値がある

→ “人海戦術的なサイバー攻撃”が消え、
AI大量試行型攻撃”が新常態へ。

7. 国家レベルの含意:サイバー戦争の非対称性が逆転

従来

防御側は守る領域を知っており、攻撃者は探索が必要だった。

今回以降

AIが攻撃面を爆速で探索 → 攻撃者の探索コストがゼロに近づく。

次の現実的リスク

  • 中堅犯罪組織でもGTG-1002級の攻撃が可能に

  • 専門分化したAIエージェント群による自律型サイバー作戦

  • 防御側は人間では追いつかず、AI防衛システム必須

8. 最後に:この事件は「AI攻撃の序章」にすぎない

GTG-1002は、人類が目にした初期の
本格的な“AI主体のサイバー攻撃”の実戦プロトタイプです。

著者情報

赤坂国際法律会計事務所
弁護士 角田進二(Shinji SUMIDA)

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