赤坂国際会計事務所

Nexperia介入、オランダ政府の狙いとは?経済安保と半導体への影響

2025.10.29UP!

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オランダ政府が、中国系資本の半導体メーカーNexperia(ネクスペリア)に対し、異例の介入措置を発動しました。このニュースに触れ、「なぜ今、オランダ政府が介入したのか?」「私たちのビジネスや半導体供給網にどんな影響があるのか?」と疑問に思っている方も多いでしょう。

この記事では、今回の「Nexperia介入」問題について、①法的な枠組み、②EUの経済安全保障政策、③米中対立の地政学的な背景、という3つの側面から速報的に分析します。その上で、今回の措置が持つ本当の意味と、今後の半導体産業の動向を読み解くためのポイントが理解できます。

<専門家の視点>
今回のオランダ政府の動きは、単なる一企業の問題ではありません。EU全体が経済安全保障を最優先課題にシフトさせた象徴的な出来事です

1. オランダ政府の介入:【Goods Availability Act】とは何か

今回の介入の根拠となった法律と、その法的な意味合いを解説します。

根拠となる「物資確保法」

  • この法律(【Goods Availability Act(物資確保法)】)は、例外的な法律です。なぜなら、戦時・緊急時に国内供給を確保するため、政府が企業に介入する権限を規定しているからです。通常は医療・エネルギー・食料分野などに適用します。
  • しかし、今回は「ガバナンス上の深刻な欠陥(serious governance shortcomings)」を理由にしています。オランダ政府がハイテク企業に適用するのは初めてのケースです。(参照:BBCの報道

介入による具体的な効果

  • 政府はNexperiaの意思決定を停止・修正する権限を取得します。
  • これは生産停止命令ではありません。むしろ、知的財産や供給継続を守るための「監督統制型介入」と言えます。

今回の介入が持つ法的な意義

  • オランダは、従来の自由貿易原則よりも経済安全保障を優先した形です。
  • そして、これはEU域内で重要な前例となります。従来の「投資自由」から「経済安全保障主義」への転換を示すものだからです。

2. EUの経済安全保障政策とNexperia問題

今回の介入は、オランダ単独の動きではなく、EU全体の大きな流れと連動しています。

背景

  • EUは2023年以降、「European Chips Act」を策定しました。これは米国の「CHIPS and Science Act」に呼応する動きです。その目的は、半導体供給網を自律化する方針を明確化することにあります。
  • こうした流れの中で、Nexperia(中国系所有)の支配権が問題視されました。欧州の技術基盤を脅かすと認識したためです。

政策の連動

  • オランダ政府の決定は、単独の動きではありません。欧州委員会が求める「経済安全保障ツールボックス」の一環とみています。
  • 特に、これは外資審査(FDI)と輸出管理を組み合わせたものです。「サプライチェーン防衛」の重要な一部と言えるでしょう。

経済的含意

  • この措置は、自動車・電子機器向けチップの供給安定を狙うものです。しかしその一方で、中国側からの報復や投資引き上げのリスクも抱えます。
  • また、ASMLなど戦略的な半導体企業を守るオランダの立場は重要です。EU全体での「技術主権」モデル化につながる可能性もあります。

3. 米中対立の狭間:Nexperia介入の地政学的背景

今回の問題は、米中間の技術覇権争いと密接に関連しています。

米国の関与

  • Nexperiaの親会社であるWingtechは、2024年12月に米商務省の「Entity List」入りしました。これは国家安全保障上の懸念がある企業リストです。
  • その結果、米国企業はWingtechへの部材輸出を制限されています。オランダの今回の決定は、こうした米国政策と整合的です。

中国の反応

  • 中国半導体業界団体(CSIA)は「選択的・差別的措置」と非難しています。
  • さらに中国側は、この措置がEU・中国間の緊張を高めるとみています。欧州が“米国の安全保障同盟”として機能している象徴的な事例だと捉えているようです。

地政学的含意

  • 欧州は「価値ベース外交(民主主義 vs 権威主義)」を背景にしています。これにより、中国の技術依存から脱却する姿勢を明示化しました。
  • しかし同時に、中国による報復的な技術統制(例:レアアース・グラファイト輸出制限)への懸念も増しています。

今後の展望

  • 今回の介入は、欧州内で「国家安全保障と産業政策の融合」を進める動きを加速させます。
  • 欧州委員会は、2026年までに「経済安全保障戦略」を正式に政策化する予定です。そして、エネルギー・半導体・AIの3分野を重点管理対象に据える方向です。

著者情報

赤坂国際法律会計事務所
弁護士 角田進二

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