赤坂国際会計事務所

ニデック会計不正の教訓:KPI至上主義とガバナンスの限界

2026.03.04UP!

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ニデック不正が示した「KPI至上主義」の行き着く先

――創業者支配と「逆らえない内部監査」の構造

2026年3月3日、ニデックは第三者委員会による調査報告書の概要版を公表した。
調査はなお継続中だが、本報告書提出時点までに、グループ各地の多拠点で多数の会計不正が発見され、2025年度第1四半期末の連結財務諸表の純資産に約1,397億円の負の影響が生じていると暫定的に算定されている。 さらに会社側は、主に車載事業に関連するのれん・固定資産について約2,500億円規模の追加減損の可能性にも言及している。

注目すべきは、不正の広がり方だ。棚卸資産の評価損回避、固定資産の減損回避、付随費用として適切でない人件費の固定資産計上、政府補助金・引当金の不適切処理、売上債権の架空計上・早期計上、貸倒引当金の過少計上など、複数の勘定科目にまたがる不正が多数確認されている。
いずれも特定個人の私利ではなく、「業績目標、とりわけ営業利益目標の達成に向けた強すぎるプレッシャー」を背景に、連結ベースの業績を取り繕うための会社利益型の不正として位置付けられている。

「営業利益率10%未満は赤字」が意味したもの

報告書は、ニデックグループにおいて長年「赤字は悪」であるとの考え方が徹底され、営業利益率10%未満は「赤字」と評価されていた事実を指摘する。
業績目標は、投資家目線で求められる成長度合いから永守氏がトップダウンで決定し、事業部・子会社に割り当てられたが、それは各現場の実力を超える水準であることが少なくなかった。

その下で、事業部門・子会社は、売上の早期計上、棚卸資産や固定資産の評価引き延ばし、資産計上の操作等によって目標達成を図った。 経理部門も本来の牽制役ではなく、「何とか数字を作る側」として機能し、会計監査人に対して不都合な事実を説明しない、あるいは事実と異なる説明を行った例が認定されている。

KPI(営業利益率・成長率)が投資家への約束として前面に出る一方で、その達成可能性や実現手段に対する統制は十分に設計されていなかった。その結果、KPIが「目的」となり、会計処理が「手段」として歪められた構図が浮かび上がる。

「永守氏の会社」がもたらした構造

第三者委員会は、永守氏が今般発見された会計不正を直接指示・主導した事実は発見されなかったとしつつも、一連の不正について最も責めを負うべきは永守氏であると結論付けている。

その理由として、

  • 投資家目線で実力を超える高い業績目標を設定し、その達成を強く求め続けたこと

  • 特命監査を通じて、本来直ちに是正すべき会計不正を複数期にわたる「計画的処理」として扱う例を把握し、それを受け入れたこと

  • 「負の遺産」と呼ばれる資産性に疑義のある資産の一括処理を図る構造改革について、営業利益目標を前提として実現可能な範囲にとどめ、2024年度第4四半期に計画された追加の構造改革は拒否した結果、本来処理すべき資産が残存したこと

などが挙げられている。

報告書は、ニデックを「あらゆる権限が永守氏に集中した『永守氏の会社』」と描写し、人事権を含む強い権限が経営幹部に対する業績プレッシャーと結び付き、会計不正を生み出す要因となったと指摘する。
創業者支配が、業績目標の設定・是正の判断・負の遺産処理のタイミングなど、重要な経営判断を一手に握り、ガバナンス機能の実効性を低下させていたことは、法務・コンプライアンス上の大きな示唆である。

「逆らえない内部監査」という病理

本件で特に示唆的なのは、第3線である内部監査部門の位置付けである。

ニデックの内部監査部門は、会計監査専任部署を持ち、年間60拠点程度を対象に会計監査を実施するなど、形式的には先進的な体制を整備していた。 また、永守氏の指示に基づき、会計不正・着服・横領等を対象とした「特命監査」も実施されていた。

しかし運用面では、

  • 会計不正の根本原因が本社からの業績プレッシャーにあると認識しながら、その点には切り込まず、調査報告書・ヒアリング議事録から該当記述を削除したこと

  • 決算スケジュールの遅延を避けることを優先し、深掘り調査を避けたこと

  • 特命監査の結果や「負の遺産」の全体像が内部監査部門や社外役員・会計監査人と十分に共有されなかったこと

などが明らかにされている。

社外の監査等委員に対しても、個別事案の概要は報告されていたものの、強すぎる業績プレッシャーや負の遺産といった根本問題は共有されておらず、毎年多数の会計不正が発生している状況に違和感を持つ者もいなかったとされる。

Three Lines Modelの観点から見ると、第1線(業務部門)が目標達成のために不正を行い、第2線(経理)がそれを容認・主導し、第3線(内部監査・監査等委員会・社外役員)が原因に踏み込まない――という「三線総倒れ」の構図であり、「内部監査が経営に逆らえない」病理が典型的な形で表れている。

その場合には、内部者の洗浄作用は期待できず、外部からの洗浄、公益通報者保護法などを含めた対応が必要となる。退職した後に、通報するなどの対応により第三者を招致したうでの洗浄作用しか期待できない状況なのである。

よくある質問(Q&A)

Q1:今回の不正の主な原因は何ですか?
A1:投資家目線の非現実的な業績目標と、それを必達とする経営トップからの強烈なプレッシャー、そして「負の遺産」を是正させない組織風土が根本原因です。

Q2:経営陣の責任はどう評価されていますか?
A2:創業者の永守氏については、直接の指示はないものの、不正を誘発する構造を維持し、不正を認識しながら受け入れていたとして「最も重い責任」があると評価されています。

Q3:再発防止策の実効性は?
A3:現在は権限の分散や役員交代などの「設計」段階にあります。今後、プレッシャー文化という「ソフト面」の変革がどこまで浸透するかが焦点となります。外部からの監査を含めた対応が今後望まれます。

貴社のガバナンス体制を診断:不正リスクの予兆

以下に1つでも該当する場合は、組織的な会計不正のリスクが潜在している可能性があります。まずは自社の状況をご確認ください。

  • □ 現場の実力とかけ離れた高い利益目標がトップダウンで課されている
  • □ 監査部門が経営トップに対して「不都合な事実」を報告しにくい雰囲気がある
  • □ 「計画的処理」という名目で、過去の損失処理を先送りする慣習がある
  • □ 内部監査の結果が、一部の経営層のみで共有されブラックボックス化している

専門家の視点:信頼回復への最短ルート

一度失われた市場の信頼を回復するには、数字の訂正だけでなく、組織の「空気」を入れ替える抜本的な構造改革が不可欠です。ニデックのような大規模事案は、どの企業にとっても対岸の火事ではありません。ガバナンスの形骸化に不安を感じている経営層・法務担当者の方は、事態が深刻化する前に専門家へご相談ください。

著者情報

赤坂国際法律会計事務所

弁護士 角田進二(Shinji SUMIDA)

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