赤坂国際会計事務所

Open AIの戦略 規制の壁を越えるイノベーション法務

2025.11.03UP!

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この記事でわかること:
・事業を制約する「4つの原理」とは何か
・OpenAIやヤマト運輸がどう「壁」を乗り越えたか
・スタートアップや大企業が規制を突破する実践的アプローチ

スタートアップや新規事業を立ち上げる際、既存の法律や「社会の常識」が大きな壁として立ちはだかることがあります。しかし、激動の時代において、イノベーションは常に既存の枠組みとの摩擦から生まれます。

「法律がないから動けない」と嘆く前に、事業を取り巻く制約の正体を知ることが重要です。本記事では、法学者レッシグが提唱した「4つの制約原理」に基づき、スタートアップが「規制の壁」を突破し、新しい市場を創造するための実践的アプローチを解説します。

事業を制約する「4つの原理」とは?

かつてレッシグは、私たちの行為を制約する原理として「法」「社会規範」「市場」「アーキテクチャ」の4つを挙げました。スタートアップが直面する「壁」も、このいずれかに分類できます。

1. 法(法律による規制)

最も分かりやすい制約が【弁護士法】や【著作権法】といった「法律」です。違反すれば罰則があります。日本においては絶対的なものと捉えられがちですが、Luup(ループ)のように、ロビー活動を通じて法律自体を変革し、市場を切り開くケースもあります。

2. 社会規範(常識やマナー)

法律違反ではなくても、「世間体が悪い」「常識的にありえない」といった社会的な圧力が「社会規範」です。新しいサービスは、しばしば既存の規範と衝突します。(例:退職代行サービス登場時の社会的反応)

3. 市場(コストと価格)

どれだけ優れたサービスでも、提供コストが高すぎたり、需要がなければ「市場」原理によって制約されます。価格設定やビジネスモデルそのものが制約要因となります。

4. アーキテクチャ(物理的・技術的制約)

サービスの提供を物理的・技術的に不可能にする仕組みが「アーキテクチャ」です。例えば、特定の機能を使わせないシステム設計や、そもそもインターネットに接続できない物理環境などがこれにあたります。

AI時代の事例分析:OpenAIはどの壁を利用したか

近年、最も巧みにこれらの制約を乗り越えたのが、ChatGPTを開発したOpenAIです。彼らの戦略は、4つの原理を深く理解していることを示しています。

「法」のグレーゾーンと「市場」の先行

OpenAIは2015年当時、非営利団体として設立されました。これは、AI学習の著作権問題(法)がグレーゾーンである中、「フェアユース」を主張しやすい建付けにし、かつ短期的な「市場」の圧力を避ける狙いがあったと推測されます。

彼らはまず「市場」活動を先行させ(GPT-3.0の発表)、AIの圧倒的な利便性という「大衆のニーズ」を盾にしました。これは、かつてソニーが録画機器の著作権問題で「フェアユース」を主張した戦略と似ています。

「アーキテクチャ」による「社会規範」への配慮

一方、パートナーであるマイクロソフトは「責任あるAI」を標榜しました。営業秘密が漏洩しない仕組み(アーキテクチャ)を整備することで、「AIは危険だ」という「社会規範」からの批判をかわし、エンタープライズ市場を開拓しました。

結果として、市場と社会規範が形成された後から、ヨーロッパのAI Actなど各国の「法」規制が追いついてくる形となっています。

そのOpenAIは現在IPOの手続きに入っている。その額は、最大1兆ドルとされています。IPOをする前に多くの会社がOpenAIに著作権関連につき訴訟するのは、アメリカの米国証券取引委員会に問題があり上場のハードルが高いことを示すこともあるでしょう。そしてOpenAIはそうした賠償金を十全に払うために上場するという口実もあるでしょう。

トリックは、今はサム・アルトマンその他の株主が権限をもち、今後上場したら多くの株主がその賠償金を支払うという、大衆vs大衆(著作権を争うもの)という構図になる点です。これが上場した会社であり、以上の研究、Soraの立ち上げをしていたら、その取締役は株主代表訴訟などにさらされていた可能性はあるが、上場前であればそのおそれはないでしょう。

スタートアップ等が「規制の壁」を突破する2つのアプローチ

では、これから事業を始めるスタートアップは、これら4つの原理をどう活用すればよいのでしょうか。成功パターンは大きく2つのエリアに集約されます。

アプローチ①:新しく生まれた市場(グレーゾーン)を狙う

ビットコインやAirbnbのように、既存の「法」がまだ整備されていない新しい市場を狙う方法です。この場合、問題が顕在化する前に、自ら「社会規範」を作る(自主規制団体を設立するなど)ことが、無法地帯と見なされないために重要です。

アプローチ②:既存プレイヤーが疲弊した市場を狙う

業界の平均年齢が極端に高い、利益が出ず疲弊しているなど、既存のプレイヤー自身が「法」や「市場」の制約に苦しんでいるエリアです。

かつてヤマト運輸は、既存の「法」に挑戦し、行政(当時の運輸省)との闘いを経て「宅配便」という新しい市場を創造しました。これは、既存の枠組みでは利用者が困っていた点を突いた好例です。

まとめ:4つの原理を分析し、突破口を見出せ

起業家や事業家は、常に「法」「社会規範」「市場」「アーキテクチャ」の4つを総合的に考慮し、行動すべきです。

「法律があるからできない」と嘆く前に、どの制約が最も強く、どの制約が揺さぶりやすいのかを分析すること。それこそが、既存の枠組みを超越した仕組みを作り出し、社会を変えるイノベーションの第一歩となるでしょう。


著者情報

赤坂国際法律会計事務所
弁護士 角田進二

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