日本におけるアクティビスト投資家の「オペレーター化」の試み(2023-2025年)
2025.10.14UP!
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「最近よく聞くアクティビストの『オペレーター化』って何?」「自社にも関係があるのだろうか?」
本記事では、そんな疑問にお答えします。まず、2024年から2025年にかけて活発化する「オペレーター化」の実態を解説します。さらに、セブン&アイやトプコンなどの最新事例を基に、その動きを徹底解剖。そして、METIの指針改訂など、法制度の変化が企業経営に与える影響まで詳しく見ていきましょう。
2024年〜2025年における株主アクティビズムの核心的発見
2024年の株主総会では、株主提案が過去最高の113社に達し、アクティビストの活動が特に活発化しました。主な要求は、増配や自己株買いといった株主還元です。それに加え、資本コストを意識した経営改革も強く求められています。さらに、TOB価格の引き上げや非公開化(MBO)提案など、経営に深く関与する「M&Aアクティビズム」も増加傾向にあります。その結果、アクティビストがPEファンドと連携し、非公開化後も経営に関与し続けるという新たな潮流が生まれているのです。
今後の展望:
- 日本のコーポレートガバナンス改革が、アクティビストの活動を後押ししています。
- アクティビストは、非公開化を含む、より大胆な提案を企業に対して行うようになっています。
- その受け皿としてPEファンドが存在感を増しており、両者の連携・協調がM&A市場の主要トレンドになっています。
【事例研究】アクティビストによる「オペレーター化」の段階と実態
ケース①:Seven & i Holdings × ValueAct Capital(2020〜2025年)
サマリー
アクティビストValueActが支持した人物がCEOに就任しました。委任状争奪戦には敗北したものの、結果的に取締役会を通じて経営トップに影響を及ぼした、象徴的な「オペレーター化」の事例です。
主なイベント
2023年、ValueActは事業分離を要求し委任状争奪戦に発展するも敗北します。しかし、以前から社外取締役だったスティーブン・ダカス氏が2024年に議長、2025年にはCEOに就任。これを受け、ValueActは経営陣支持へと方針転換しました。
オペレーター化評価
Stage 4達成(CEO就任)。ただし、アクティビストが直接送り込んだわけではなく、既存の社外取締役が昇格した点が特徴です。
ケース②:Topcon × ValueAct/KKR/JIC(2024〜2025年)
サマリー
アクティビストがPEファンドと組み、MBOによって企業を非公開化しました。そして、非公開化後も共同投資家として経営に関与する、「擬似オペレーター型」の代表例となっています。
主なイベント
筆頭株主であったValueActは、2025年にPEファンドのKKR、政府系ファンドのJICと共にMBOを発表。ValueActは再投資する形で、非公開化後も戦略的パートナーとして経営に関与を続けます。
オペレーター化評価
Stage 5(非公開化後の共同投資)。ただし、実際の業務執行は既存CEOが継続します。そのため、経営を完全に支配するわけではなく、あくまで「戦略的パートナー」としての関与に留まります。
ケース③:クスリのアオキ × Oasis Management(2023〜2025年)
サマリー
創業家支配が強い企業に対し、アクティビストは株主提案と株主代表訴訟を同時に仕掛けました。しかし、この「デュアルトラック戦略」は高い壁に阻まれた事例です。
主なイベント
Oasisは創業家の利益相反問題を指摘し、3年連続で株主提案を実施。ところが、安定株主の支持を得られず全て否決されました。並行して提起した株主代表訴訟は現在も継続中です。
オペレーター化評価
Stage 1(外部からの圧力)に留まる。これは、創業家支配などが根強い企業に対する、対立的アクティビズムの限界を示す事例と言えます。
その他主要事例
ダイドーリミテッド
アクティビスト: Strategic Capital
到達段階: Stage 2(取締役会)
結果: 成功(取締役3席獲得)。2024年6月、保有率32%を背景に、提案した取締役候補6名のうち3名が当選しました。
東洋証券
アクティビスト: UGS/Sunshine
到達段階: Stage 4(CEO交代)
結果: 成功(CEO辞任)。2024年6月の株主総会当日、アクティビストからの圧力により、社長が辞任に追い込まれました。
フジテック
アクティビスト: Oasis
到達段階: Stage 4(会長解任)
結果: 成功(取締役会変革・会長解任)。2023年、臨時株主総会でOasis推薦の取締役が選任され、新体制の取締役会が創業家会長を解任しました。
アクティビズムを後押しする法制度・市場の変化
経済産業省【企業買収における行動指針】(2023年8月)
この指針は、日本のM&A実務における画期的な転換点です。従来、買収提案は「敵対的」と見なされがちでした。しかしこの指針では、「真摯な提案」であれば、取締役会は「真摯に検討する義務」を負うと明確化されたのです。このため、企業側は恣意的に提案を拒否できなくなり、アクティビストによる買収提案の心理的ハードルも大幅に下がりました。
- 実務的変化: 買収防衛策の採用率が大幅に低下(2023年時点で6.8%)。また、多くのMBOで独立した特別委員会の設置が標準化。
- 定量的インパクト: 敵対的TOBの提案数は2023年の3件から2024年には7件へと増加。2025年もこの増加傾向は続いています。
専門家の視点
METIの指針は、単なるガイドラインではありません。なぜなら、裁判所の判断に事実上の影響を与える可能性があるからです。これにより、取締役の善管注意義務の解釈が大きく変わる可能性があります。したがって、経営陣は株主の利益を最大化する提案を、これまで以上に真剣に検討する必要が出てきたのです。
東京証券取引所の改革(2023〜2025年)
① PBR1倍割れ改善要請
東証はPBR1倍割れの企業に対し、改善計画の開示を要請しました。この動きが、市場に大きな影響を与えています。すなわち、これはアクティビストが長年主張してきた「資本効率の改善」を、市場が公的に後押しする形となったのです。その結果、アクティビストにとっては強力な追い風となっています。
② 英文開示の義務化(2025年4月施行)
プライム市場の企業に対し、決算情報などの英文開示が義務化されました。この義務化によって、海外アクティビストが日本企業を調査・分析する際の情報格差は劇的に縮小します。そのため、海外からの投資がさらに加速すると見られています。
Q&A:なぜ日本で「オペレーター化」が進むのか?
- Q. なぜ今、日本市場が注目されているのですか?
- A. 理由は主に二つあります。一つは長年のデフレ経済からの脱却が期待されていること。それに加え、本記事で解説した一連のコーポレートガバナンス改革が実を結び始めています。その結果、海外からは「割安で経営改善の余地が大きい魅力的な市場」と見なされているのです。
- Q. 「オペレーター化」のための活動は今後も続くのでしょうか?
- A. はい、続くと考えられます。なぜなら、法制度や市場環境がアクティビストに有利に働いているからです。そのため、短期的な株主還元要求だけではありません。むしろ、非公開化や事業再編といった、長期的・構造的な変革を求める「オペレーター化」の動きが、今後さらに本格化するでしょう。