赤坂国際会計事務所

『中小受託取引適正化法 テキスト』 – 要約

2025.12.03UP!

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この記事の結論(30秒で把握)

中小受託取引適正化法(取適法)は、下請法の規制対象を拡大し、取り締まりを強化するものです。

  • 対象拡大:物流(特定運送委託)も対象に追加。資本金だけでなく従業員数も判断基準に。
  • 60日ルール:受領から60日以内の「現金」支払いが義務化(手形原則禁止)。
  • 価格転嫁:労務費高騰などの協議に応じない据え置きは「違反」認定。

2025年(令和7年)の法改正により、従来の下請法は「中小受託取引適正化法」へとアップデートされました(令和8年1月1日施行)。

それに伴い、公正取引委員会および中小企業庁によって作成された、**「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)**のテキストが公表されました

本記事では、公正取引委員会・中小企業庁の指針に基づき、実務担当者が知っておくべき変更点と、直ちに対策すべき「4つの義務・11の禁止事項」について解説します。

1. 法の適用対象と「形式的基準」

本法の最大の特徴は、取引の公正さを迅速に担保するため、「相手が同意したから」「業界の慣習だから」という個別事情を排除し、形式的な基準(資本金・従業員数)で機械的に適用される点です。

主な変更点:従業員基準と物流の追加

① 従業員数基準の導入

従来は資本金のみが基準でしたが、資本金が小さくても従業員数が多い(例:300人超)事業者は「委託事業者」として規制対象になります。これにより、減資による規制逃れを防ぎます。

② 特定運送委託(物流)の追加

製造・修理などに加え、新たに物流業界における多重構造の適正化を目指し、運送委託も本法の保護対象として明記されました。

2. 委託事業者の「4つの義務」

委託事業者(発注側)は、以下の4つの義務を「入口」から「出口」まで厳守する必要があります。「社内手続きの遅れ」は理由として認められません。

重要:口頭発注はトラブルの元凶とみなされます。必ず「直ちに」書面化してください。
① 書面の交付義務(第4条)
発注後、直ちに給付内容、代金、支払期日等を記載した書面(または電磁的記録)を交付しなければなりません。内容が未定の場合でも「定まらない理由」と「予定期日」を記載した書面が必要です。
② 支払期日を定める義務(第3条)
物品等の受領日(役務提供日)から60日以内、かつ可能な限り短い期間内で支払期日を定めなければなりません。「月末締め翌々月払い」などは60日を超えるため違法です。
③ 書類等の作成・保存義務(第7条)
発注、受領、検査、支払などの取引記録を作成し、2年間保存する義務があります。
④ 遅延利息の支払義務(第6条)
支払いが遅れた場合、受領日から60日を経過した日から、年率14.6%の遅延利息を支払う必要があります。

3. 絶対にやってはいけない「11の禁止事項」

以下の行為は、たとえ中小受託事業者の「合意」があっても違法となります(客観的違反)。

特に注意すべき5つの重点項目

  • 受領拒否: 注文した物品の納期を勝手に延期したり、発注を取り消したりすること。
  • 代金の支払遅延: 60日以内の期日までに支払わないこと。手形払いや、割引が必要な電子記録債権は原則禁止(支払遅延とみなされます)。
  • 代金の減額: 「歩引き」「協賛金」「目標達成リベート」など名目を問わず、発注時の金額から引くこと。
  • 買いたたき: 労務費や原材料費が高騰しているにもかかわらず、協議に応じず一方的に価格を据え置くこと。
  • 不当な経済上の利益の提供要請: 金型を無償で保管させたり、協賛金を強要したりすること。

その他、返品の禁止、購入・利用強制の禁止、報復措置の禁止などが定められています。

本書では多数の「違反行為事例」が挙げられています。よく引用する典型的な「悪い例」は以下の通りです。

後出しのボリュームディスカウント(減額): 「目標達成リベート」や「協賛金」の名目で、支払時に一方的に代金から数%を差し引く行為 。

やり直しのタダ働き(不当なやり直し): 発注時の仕様が曖昧だったのに、後から「イメージと違う」と言って修正させ、追加費用を払わない行為 。

金型の無償保管(経済上の利益の提供要請): 「また使うかもしれないから」と言って、何年も発注がない金型を下請事業者の倉庫に保管させ続け、保管料も支払わない行為 。

消費税の切り捨て(減額): 「総額で丸める」等の理由で、消費税相当分を払わなかったり、端数切り捨てを行ったりする行為 。

物流センターフィーの天引き(減額): 取引条件として合意していないのに、物流センター利用料(センターフィー)を一方的に代金から差し引く行為 。

4. 企業が直ちに取り組むべきアクション

当局は「形式的な不備」であっても厳格に運用する姿勢を示しています。以下の3点を直ちに点検してください。

  1. 「口頭発注」の根絶: メールやEDIなど、必ず証拠が残る形式で発注を行い、保存するフローを確立する。
  2. 「60日現金払い」への変更: 支払サイトを確認し、手形払いを廃止。受領から60日以内に現金が着金するスケジュールに変更する。
  3. 「価格協議」の記録化: 値上げ要請があった場合は必ず協議の場を設け、その議事録を残す(門前払いは買いたたき認定のリスク大)。

Q1: 中小受託取引適正化法と従来の下請法の主な違いは何ですか? A1: 対象範囲と判断基準が拡大しました。 従来の製造・修理に加え、新たに「物流(特定運送委託)」が対象となりました。また、親事業者の定義において、資本金だけでなく「従業員数」も判断基準に追加され、減資等による規制逃れが防止されています。

Q2: 「60日ルール」について、手形払いは認められますか? A2: 原則として認められません。 物品等の受領日から60日以内の「現金」支払いが義務化されました。手形や、割引が必要な電子記録債権での支払いは、実質的に60日を超える場合が多く、指導・違反の対象となる可能性が高いため、現金払いへの移行が必須です。

Q3: 物流センターフィーを代金から引くことは違法ですか? A3: 事前の明確な合意がなければ違法(減額の禁止)です。 発注時に合意していないにもかかわらず、物流センター利用料や協賛金などの名目で代金を差し引く行為は、たとえ商習慣であっても「不当な減額」とみなされ、直ちに法違反となります。

Q4: 価格交渉に応じてもらえない場合、「買いたたき」になりますか? A4: 違反認定される可能性が高いです。 労務費や原材料費が高騰している状況で、受託事業者からの値上げ要請に対して協議の場を設けず、一方的に価格を据え置く行為は「買いたたき」として厳しく取り締まられます。協議の経緯を記録に残すことが重要です。

著者情報

赤坂国際法律会計事務所
弁護士 角田進二(Shinji SUMIDA)

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