赤坂国際会計事務所

「循環取引」と「戦略的異業種連携」の法的境界線とは?オルツ事件から学ぶ企業価値向上の適法な戦略とリスク管理

2025.09.26UP!


近年、企業間の資本関係が複雑化しています。同時に、取引構造も複雑化する中で、「循環取引」と「戦略的異業種連携」の境界線が注目を集めています。

そのため、自社の連携戦略が違法な循環取引と判定されるリスクに不安を感じる法務担当者も少なくありません。そこで本稿では、法的観点から両者の違いを分析します。

さらに、適法な企業価値向上策を構築するための具体的な判断基準を提示します。具体的には、オルツ事例とOpenAI型連携の比較を通じて、実務で活用できる法的要件を明らかにします。

1. 循環取引と戦略的連携の決定的な違い【比較表】

結論: まず結論として、循環取引は「実態のない資金循環」です。一方、戦略的連携は「実需に基づく価値創出」です。このように、両者は明確に異なります。

比較項目 循環取引(違法) 戦略的連携(適法)
経済的実質 商品・サービスの移転なし 実際の商品・サービス提供あり
キャッシュフロー 内部循環のみ(外部流入なし) 外部顧客からの収益あり
取引目的 売上・利益の水増し 技術革新・市場拡大
独立性 関連当事者間の依存関係 独立企業間の対等な関係
法的リスク 金商法違反・会社法違反 適法(適切な開示前提)

2. 循環取引の法的定義と問題点

結論: したがって、循環取引とは実態のない取引で売上を水増しする違法行為です。つまり、金融商品取引法等違反で罰則対象となります。その結果、取締役は損害賠償責任を負います。

Q: 循環取引は何が違法なのですか?

A: それでは、循環取引は以下の3つの特徴を持つ違法な取引形態です。順番に解説します。

2.1 循環取引の基本的な定義

まず、循環取引とは何かを定義します。これは、実際には商品やサービスの移転がありません。加えて、経済実態もありません。

それにもかかわらず、複数の企業間で売買が循環的に行われます。同時に、資金移動も循環的に行われます。その目的は、売上高や利益を水増しすることです。

2.2 循環取引の3つの特徴

したがって、主な特徴は以下の通りです。それぞれ詳しく見ていきましょう。

①実質的な外部キャッシュフローの欠如

まず第一に、取引が外部から新たな資金流入をもたらしません。つまり、内部で資金が行き来するだけです。したがって、実質的な経済価値が生まれない構造です。

②関連当事者間での資金の循環

次に、関係会社や取引先との間で資金がぐるぐる回ります。同様に、商品もぐるぐる回ります。その結果、見せかけ上の売上や収益を計上します。

③経済的実質を欠く反復取引

さらに、取引自体に経済合理性がありません。したがって、同じ資金が名目を変えて往復します。このような取引が繰り返されます。

2.3 関連法令と違反リスク

それでは、循環取引によって架空の売上計上を行えば、各種法令に抵触します。また、粉飾決算を行えば、同様に法令に抵触します。そのため、その主な法的リスクを整理します。

金融商品取引法上のリスク

まず、上場企業が有価証券報告書に虚偽の財務情報を記載すれば、金融商品取引法違反となります。同様に、開示書類に虚偽記載があれば違反です。したがって、重大な法的責任を負います。

会社法上のリスク

さらに、取締役には善管注意義務が課されています。加えて、忠実義務も課されています(【会社法第355条】)。

したがって、循環取引による粉飾決算は明らかに義務違反です。つまり、取締役が任務を怠れば損害賠償責任を追及されます(【会社法第423条】)。

2.4 オルツ事例:日本における循環取引の実態

それでは、日本における具体的事例を見ていきます。AIスタートアップの株式会社オルツ(Alt社)を巡る不正会計疑惑が挙げられます。

オルツの取引手法

まず、オルツは議事録作成ソフト「AI GIJIROKU」を販売していました。その際、販売代理店(「スーパーパートナー(SP)」)にライセンスを一括販売した時点で売上を計上していました。

露見した問題点

しかし、実際には代理店にライセンスが発行されていませんでした。その代わりに、オルツから広告宣伝費や研究開発費の名目で第三者に資金が支払われました。そして、その資金が代理店に還流していたことが判明しています。

[専門家コメント:第三者委員会の評価]
第三者委員会の意見書によれば、この取引構造は典型的な循環取引の特徴を備えています。

循環取引の帰結

このように、循環取引は企業価値を一時的に粉飾できます。しかし、それは持続しません。したがって、最終的には企業の信用が失墜します。加えて、法的責任という深刻なツケを支払う結果となります。

3. OpenAI-Oracle-Nvidia型連携の法的特徴

結論: 一方で、OpenAI-Oracle-Nvidia型連携は独立企業間の実需に基づく取引です。つまり、外部顧客への価値提供を通じて適法に企業価値を向上させます。このように、循環取引とは本質的に異なります。

3.1 OpenAI型連携とは何か

それでは、上記の循環取引とは対照的に、異業種間の戦略的連携によって企業価値を高めるモデルを見ていきます。近年注目を集めたOpenAI-Oracle-Nvidia型の連携があります。

これは米国のAI研究企業(OpenAI)です。加えて、クラウドサービス企業(Oracle)です。さらに、半導体企業(Nvidia)です。このように、異なる業種の大手3社が相互に資本参加しています。同時に、取引関係も構築しています。

3.2 独立性の確保:3つのポイント

その法的特徴は以下の点で循環取引と明確に区別されます。順番に見ていきましょう。

①独立した事業目的

まず、各社はそれぞれ異なる市場領域で事業を展開しています。つまり、互いに親子会社関係ではありません。したがって、独立企業です。

さらに、経営判断も各社の取締役会により独立になされます。したがって、連携によっても意思決定機関が形骸化しません。このように、独立性が確保されています。

②第三者との取引関係

次に、3社間の取引は相互に利害関係があります。しかし、いずれも市場価格に基づく商取引です。つまり、企業会計上も関連当事者取引に該当しない関係です。あるいは、重要な関連当事者取引ではありません。

その結果、他の独立した顧客との取引と同様の条件です。同様に、サプライヤとの取引も同じ条件で行われています。したがって、公正性が担保されています。

③経済的合理性の存在

さらに重要な点として、各取引が単独でも経済合理性を有しています。たとえば、OpenAIは大規模計算資源を必要とします。そのため、Oracleのクラウド契約を結びます。

同時に、Oracleはその需要に応えます。したがって、Nvidiaから最新GPUを大量購入します。このように、各社の取引には明確な事業上の必要性が存在します。加えて、合理性も存在します。

したがって、単に相手に金銭を供与して数字を操作するような循環取引とは根本的に異なります。

3.3 実需に基づく循環構造の合法性

以上のように、独立性が確保されています。同時に、合理性も確保されています。したがって、たとえ3社間で資金が回る「閉じたループ」の構造が生まれても違法とはなりません。現在においての複雑な社会では単に違法な循環取引とグレーな循環取引との区別をしてもそれは株価の上昇に繋がりません。大事なのは、IR上意味のある取引です。

三角形の資金循環構造(IR上意味のある取引)

実際、OpenAI・Nvidia・Oracleの提携では三角形の循環構造が指摘されています。具体的には、「NvidiaがOpenAIに巨額投資を行う」です。次に、「OpenAIがOracleにクラウドサービス料を支払う」です。そして、「Oracleが得た資金でNvidiaの半導体を購入する」という流れです。

実体を伴う循環

しかし、この循環はAIデータセンターの構築という実体を伴っています。そのため、「相互に相手の顧客・供給者・投資者になる巧妙なネットワーク」と評価されています。

言い換えれば、実需に基づく生産的な循環です。したがって、経済的実質のない循環取引とは一線を画しています。

3.4 付加価値の創出:3つの側面

①技術革新の促進

まず、AI研究の強みがあります。加えて、クラウドインフラの強みがあります。さらに、半導体技術の強みがあります。このように、各社の強みが相乗効果を発揮します。

その結果、より高度な次世代AIインフラの実現に寄与しています。つまり、この連携は単なる売上の付け替えではありません。それどころか、新たな技術基盤の構築という付加価値創出を目的としています。

②市場拡大への寄与

さらに、各社は連携を通じて従来とは異なる市場を開拓しています。したがって、AIサービス市場が拡大します。同時に、クラウド市場も拡大します。加えて、GPU市場も拡大します。このように、関連市場全体の拡大に貢献しています。

例えば、OpenAIはより多くの外部顧客に高度なAIサービスを提供できます。同時に、OracleはAI需要の取り込みでクラウド事業を拡大します。加えて、Nvidiaは自社チップの大量需要で売上を伸ばします。

③実質的なキャッシュフロー創出

何より重要な点として、このモデルでは外部顧客からの収益獲得という形で新たなキャッシュフローが生み出されます。

具体的には、OpenAIの生成AIサービスのユーザからの利用料があります。また、法人利用者からの利用料もあります。さらに、OracleやNvidiaが他の顧客から得る売上もあります。このように、循環の輪の外側に実質的な収益源が存在します。

したがって、資金が社内でぐるぐる回るだけの循環取引とは異なります。その結果、連携各社に持続的な利益をもたらす構造となっています。

3.5 循環取引と説明責任を比較的要しない取引との違い

以上のように、実態を伴った付加価値の創出があるか否かが決定的です。つまり、これが循環取引と適法な連携モデルを分けるポイントです。

したがって、OpenAI–Oracle–Nvidiaの事例は、3社が互いに顧客・供給者・投資者となります。同時に、閉じた関係性を構築します。それにもかかわらず、大規模AIデータセンター建設という社会的に意義深いプロジェクトを推進しています。

その結果、各社の業績が向上します。加えて、市場価値も高まります。したがって、このような連携は法的にも正当化され得る企業価値向上策のモデルケースといえます。

4. IR上意味のある連携モデルを構築するための4つの要件

結論: したがって、適性な連携には4つの要件が必須です。具体的には、①実需の明確化、②新しい価値創出、③外部キャッシュフロー、④透明なガバナンスです。それぞれ詳しく見ていきましょう。

4.1 実需(外部顧客の明確化)

日本AI企業の課題

まず、日本のAI企業は研究開発型で終わりがちです。その結果、実需が不十分になりやすい傾向があります。つまり、顧客による利用と課金が不足します。

オルツの場合の対策

一方、オルツはパーソナルAIを提供しています。また、生成AIプラットフォームも提供しています。したがって、エンタープライズ導入事例を確保できれば「外部キャッシュイン」が明確化できます。同様に、官公庁案件も重要です。

実務上の示唆

つまり、連携先は「利用者基盤を持つ企業」であるべきです。例えば、通信キャリアです。また、銀行も該当します。さらに、小売企業も該当します。

その結果、AIを使ったサービスを実際の顧客に提供できます。このような構造が必要です。

4.2 新しい価値(AI × 他産業シナジー)

単独企業の限界

まず、単独のAI企業が市場を大きく動かすのは難しい現状があります。したがって、異業種連携が重要です。

生成AI関連企業の戦略的可能性

しかし、独自のLLM技術を軸に異業種との接点を作れます。例えば、「製造業の自動化」があります。また、「金融のリスク分析」もあります。さらに、「医療データ解析」もあります。このように、シナジーを発揮できます。

新市場創出の重要性

したがって、AIを「既存産業の効率化」だけに使うのは不十分です。それに加えて、「新市場創出」に結びつけることが不可欠です。

例えば、医療画像診断支援があります。また、カスタマーサポートの自動化も挙げられます。さらに、金融取引の自動助言なども挙げられます。

4.3 キャッシュフローの流れ(資金の外部性)

循環取引リスクの回避

まず、関連当事者間だけでお金が回ると「循環取引」に近づきます。したがって、このリスクを回避する必要があります。

オルツの資金フロー設計

そこで、以下のような資金の流れを構築すべきです。

①まず、投資家からの出資があります。具体的には、国内外VCや大企業CVCです。
②次に、生成AI企業がクラウド企業に利用料を支払います。
③そして、クラウド企業がハードウェア企業から設備を調達します。

したがって、この流れを「最終的に外部顧客からの利用料で回収」する設計にします。その結果、実質的なキャッシュフローが成立します。

外部市場からの収益確保

つまり、必ず「外部市場からの収益で回す」ことが前提です。なぜなら、内部資金の循環は数値上のトリックと見られるからです。したがって、外部性の確保が重要です。

4.4 ガバナンス(投資家への説明力)

見せかけ協業のリスク

まず、AI連携は「見せかけの協業」に陥りやすい傾向があります。したがって、透明性の確保が重要です。

求められる透明性の具体策

そこで、以下の点を明確にすべきです。

①まず、提携理由を定量的に説明します。例えば、技術補完や顧客基盤拡大などです。
②次に、KPIを明示します。具体的には、外部顧客数、売上成長率、利用コスト削減率です。
③そして、PBR改善のシナリオを示します。また、資本コスト低下のシナリオも示します。

したがって、このような透明性が求められます。

ガバナンスの決定打

つまり、単なる「提携発表」では不十分です。それに対して、株主が納得する説明がガバナンス上の決定打となります。したがって、詳細な説明が必要です。

5. 提言:日本版「OpenAI–Oracle–Nvidiaモデル」の構築

結論: したがって、日本企業も「AI技術×インフラ×半導体」の三角連携により実需を伴う適法な企業価値向上モデルを実現できます。以下、具体的な構築方法を提案します。

5.1 日本における連携モデルの構成要素

それでは、日本においても以下のような連携モデルが実現可能です。3つの要素を見ていきましょう。

①AI技術プレイヤー

まず、独自LLMとパーソナルAI基盤を持つ企業です。具体的には、国内AI企業が該当します。

②インフラプレイヤー

次に、大手クラウド/通信企業です。例えば、KDDIがあります。また、NTTデータなども該当します。

③ハードウェアプレイヤー

さらに、計算基盤を提供する企業です。具体的には、国内半導体企業です。または、海外パートナーも含まれます。

5.2 実需創出の市場戦略

三角連携の実現

そこで、この3者が「AI技術 × 通信基盤 × 半導体」を三角連携させます。その結果、強力なエコシステムが構築されます。

ターゲット市場の設定

さらに、実需を伴う市場をターゲットにします。例えば、教育市場があります。また、医療市場もあります。加えて、金融市場や行政市場もあります。

このように、外部収益を創出する構造を作ります。したがって、持続可能なビジネスモデルとなります。

IR戦略の重要性

さらに、IRでは「PBR改善のためのストーリー」を投資家にわかりやすく提示します。つまり、具体的な数値目標と達成プロセスを明示することが重要です。

重要ポイント

✓ まず、循環取引は「実態なき資金循環」で違法です。一方、戦略的連携は「実需ある価値創出」でIR上重要な意味を持ちます。
✓ つまり、IR上意味のある連携は「外部顧客の存在」「経済的合理性」「独立性の確保」です。
✓ したがって、日本企業も4要件を満たせば適法な連携モデルを構築可能です。具体的には、実需・価値・キャッシュフロー・ガバナンスです。

著者情報

赤坂国際法律会計事務所
弁護士 角田進二

企業法務を専門とします。また、上場企業のコンプライアンス支援の実績があります。さらに、M&A案件対応も数多く手掛けています。特にスタートアップ企業の法務戦略構築に精通しています。

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