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従業員雇用の注意点を弁護士が解説|労務トラブル・解雇・採用リスク回避

2025.10.02UP!

日本で従業員を雇用する際には、複雑な法的制約が数多く存在します。また、実務上の注意点も無視できません。「知らなかった」では済まされない解雇規制や賃金トラブルは、企業の成長を妨げる大きなリスクとなります。

そこでこの記事では、労働契約の選択から採用プロセスまで、雇用の留意点を網羅的に解説します。さらに、リモートワークの課題や遵守すべき労働法も対象です。法的リスクを未然に防ぎ、貴社に貢献する人材を確保しましょう。そのための具体的なステップを解説していきます。

① 契約形態の選択|正社員雇用は最後の手段

まず検討すべきは、本当に直接雇用の「労働契約」が必要かという点です。なぜなら、日本では従業員の解雇が非常に困難だからです。そのため、リスク回避の観点から以下の順で慎重に検討することをお勧めします。

  • 役員などの委任契約
  • 業務委託(請負・準任)契約
  • 人材派遣
  • 労働契約(最後の選択肢)

「無期転換ルール」の注意点

有期労働契約であっても、注意が必要です。というのも、同一の使用者との契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者からの申し込みによって無期労働契約に転換されるからです。これは「無期転換ルール」と呼ばれます。そして、使用者はこの申し込みを断ることができません。
(参考:厚生労働省「無期転換ポータルサイト」

一方で、少子高齢化により優秀な人材の確保は難しくなっています。したがって、安定した雇用形態など、求職者にとって魅力的な募集条件を提示することも重要な課題です。

② 業務内容と報酬の明確化

雇用契約を結ぶ前に、最も重要なのは「従業員に何をやってもらうか」を明確にすることです。そして、「どのような貢献で会社に利益をもたらしてもらうか」を具体的に定義します。会社の利益こそが、従業員へ支払う報酬の原資となります。

報酬を決定する際には、例えば以下の点に注意が必要です。

  • 【最低賃金法】を下回る報酬では雇用できません。
  • 地域の賃金相場とかけ離れていては応募がないでしょう。
  • 「1日8時間で相場通り」という条件だけでは、求職者にとって魅力的に映りません。

仮に営業職を募集する場合、まずはその地域の給与相場を調べます。もし相場が高額な場合は、業務内容を細分化するのも一手です。具体的には、「ウェブマーケティング」「インサイドセールス」のように分け、専門性に応じた適切な報酬を設定します。

インセンティブ設計の重要性

現代は「コストパフォーマンス」を重視する時代です。そのため、従業員は常に自身の働きと報酬が見合っているかを見ています。明確なインセンティブ設計は、従業員のモチベーション維持に非常に重要です。特に、外部から人材を採用する際は注意しましょう。既存社員の納得感を考慮しないと、組織全体の不満につながる恐れがあります。

③ 採用時のテスト実施

業務内容と報酬が固まったら、次に適切なテストを実施します。これは、候補者がその業務を遂行できるか見極めるためです。期待する成果を出せるか、スキルや能力がポジションに合っているかを確認します。

また、スキル面だけでなく性格面も重要です。周囲と協調して業務を進められるかは、慎重に見極めるべきポイントです。

ただし、パワーハラスメントへの意識が高まっている現代において、圧迫面接のような手法は極めて不適切です。ストレス耐性を測る目的であっても、決して行ってはいけません。

④ 業務委託契約の注意点

業務委託契約は柔軟な働き方を実現します。しかし、「偽装請負」と判断されるリスクがあります。加えて、【フリーランス保護新法】による新たな規制も考慮に入れる必要があります。

もし指揮命令関係が実質的に存在すると判断された場合、それは労働契約とみなされます。結果として、労働法の保護対象となります。信頼できる人材と長期的な関係性を築くなら、労働契約も視野に入れることをお勧めします。

⑤ リモートワークの課題と対策

リモートワークは人気の働き方です。しかし、企業側には情報セキュリティや労働時間管理などの課題が生じます。この対策として、成果(アウトプット)を明確に定義することが成功の鍵です。そして、適切に評価する仕組みを構築しましょう。

特に以下の課題については、事前にルールを整備しておく必要があります。

  • 秘密情報の流出リスク管理
  • 労働時間の実態把握と健康管理
  • 貸与したPCなど、会社備品の管理・返却ルール
  • 退職勧奨など、デリケートなコミュニケーションの方法

成果へのコミットメントが曖昧なままリモートワークを導入すると、問題が生じます。例えば、コミュニケーションが希薄になり、生産性が低下するリスクがあります。

⑥【労働法】雇用時に遵守すべき法律と留意点

従業員を雇用する際は、様々な法律を遵守する必要があります。代表的なものに、【労働基準法】や【男女雇用機会均等法】があります。ここでは、特に誤解の多い「よくある間違い」について解説します。

よくある労務トラブルと注意点

  1. 名ばかり管理職
    実質的な裁量権がなく、上司の指揮命令下にある場合、管理監督者とは認められません。そのため、残業代の支払い義務が発生します。
  2. フレックス制の落とし穴
    自由な勤務時間は、深夜労働や過重労働につながるリスクがあります。そもそも、会社は従業員の健康を守る「安全配慮義務」を負っています。
  3. 裁量労働制の誤用
    導入には厳格な要件があります。さらに、労働基準監督署への届出も必要です。したがって、安易な導入はできません。
  4. 安易な解雇
    日本の法律では、客観的に合理的な理由を欠く解雇は無効です。また、社会通念上相当と認められる必要もあります。解雇は最後の手段です。
  5. 試用期間の誤解
    試用期間中であっても、解雇のハードルは決して低くありません。もしミスマッチが判明した際は、早期に専門家へ相談すべきです。

弁護士からのアドバイス

[特に退職勧奨や解雇については、手順を誤ると大きな紛争に発展するケースが後を絶ちません。必ず事前に弁護士などの専門家へ相談し、法的に有効な手順を踏むことが極めて重要です。]

⑦ オンボーディングの重要性|即戦力は存在しない

どんなに優秀な人材でも、入社後すぐに100%の力を発揮できるわけではありません。新しい環境に早期に馴染んでもらうためには、「オンボーディング」の仕組みが不可欠です。

例えば、会社の文化や業務の進め方を体系的に共有するプロセスを構築しましょう。また、上司や同僚との連携方法も伝える必要があります。とりわけ福利厚生などの情報は、全従業員に公平に伝えなければなりません。

⑧ 適切な人材へのアクセス方法

まず、求める人物像(ペルソナ)を明確にします。次に、その人材がどこにいるのかを考え、適切な採用チャネルを選ぶことが重要です。ターゲットによって、効果的な方法は異なります。

  • ヘッドハンティング
  • 人材紹介エージェント
  • 従業員からの紹介(リファーラル採用)
  • ダイレクトリクルーティング(スカウト媒体)

採用チャネルを間違えると、求める人材からの応募が集まりません。結果として、採用活動が非効率になってしまいます。

⑨ 採用プロセスの時間管理

採用活動には、非常に多くの時間がかかります。事実、面接が続くと担当者の判断力が鈍り、採用基準がぶれてしまうこともあります。

だからこそ、どのチャネルに注力するかを事前に明確にしておくべきです。そして、どのような基準で候補者を見極めるかを言語化しておくことが、現代の採用活動では不可欠です。

以上が、日本における雇用の主要な留意点です。法的な制約と実務上の課題を正しく理解し、貴社の成長につながる人材採用を実現してください。

著者情報

赤坂国際法律会計事務所
弁護士 角田進二

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