赤坂国際会計事務所

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アクティビスト対応(書簡等が来た場合等の措置)

2025.10.02UP!

株主アクティビストの活動は、多くの企業にとって大きな経営課題です。そこで本記事では、彼らに適切に対応するための実務指針を具体的に解説します。平時の準備から有事の対応まで、体系的に見ていきましょう。


平時の防衛体制構築

基本となる経営3原則

透明性の原則

良いニュースも悪いニュースも、タイムリーに開示しましょう。また、計画を変更する際は、その理由をセットで速やかに説明することが重要です。なぜなら、後出しや朝令暮改は、株主からの信頼を最も損なう行為だからです。

対話の原則

アクティビストを最初から敵と決めつけてはいけません。むしろ、建設的な提案は謙虚に受け止める姿勢が求められます。ただし、提案に反対する場合は、論理的な根拠を明確に示しましょう。

一貫性の原則

平時の説明と有事の主張に、矛盾があってはいけません。そして、全ステークホルダーへのメッセージは常に統一しましょう。短期的な市場圧力に右往左往しないことが肝要です。

平時に実施すべき8つの準備

  1. 自社脆弱性分析(四半期実施)

    まず、自社の脆弱性を定期的に分析します。具体的には、四半期ごとにPBR、ROE、ROICなどを同業他社と比較し、定点観測してください。さらに、アクティビストの視点を持つことも重要です。例えば、遊休不動産の有無や、配当性向が低すぎないかといった点もチェックしましょう。この分析は、経営企画、IR、財務の三部門が合同で実施します。

  2. 株主構成の継続的モニタリング

    次に、株主の構成を継続的にモニタリングします。そのために、月次で株主名簿や大量保有報告書などを確認してください。株主は以下の4つに分類し、対応を準備しておくと良いでしょう。

    • 与党株主(安定的賛成票):定期的な情報提供と感謝の表明を行う。
    • 中間層株主(議案ごと判断):積極的にエンゲージメント(対話)を実施する。
    • 野党株主(アクティビスト系):動向を注視し、必要に応じて対話する。
    • 不明株主(実質保有者不明):実質的な株主を特定する作業を進める。

    また、早期警戒システムとして、3%以上の保有が確認されたら経営陣へ報告する、といったルールも設けておきましょう。

  3. 株主エンゲージメントの体系化

    株主とのエンゲージメント(対話)は、体系的に行いましょう。例えば、四半期決算説明会や個別面談などを、年間のカレンダーに組み込みます。そして、対話内容は必ず記録してください。日時や議論のテーマなどを記録し、法務部門と定期的に共有します。これにより、平時の説明と有事の主張との一貫性を確保できます。

    加えて、機関投資家への対策も忘れてはいけません。上位20株主の議決権行使ガイドラインを入手したり、ISSやGlass Lewisのポリシーを年次で確認したりします。たとえ自社が直接投資を受けていなくても、これらのポリシーは一般的な基準となるため、確認は必須です。

  4. 危機対応体制の整備

    有事に備え、危機対応の体制を事前に整えます。まず、対策本部のメンバーを社長、CFO、IR担当などで固め、それぞれの役割を明確化します。同時に、情報共有システムや緊急連絡網といった物理的な準備(War Room準備)も進めておきましょう。

    さらに、年次でシミュレーション訓練を行うことも有効です。例えば、「アクティビストから要求書簡を受け取った」という想定で、72時間以内の初動方針を決定する演習などを行います。

  5. 外部専門家との事前関係構築

    有事の際は、外部の専門家の力が必要不可欠です。そのため、平時から以下の専門家と契約・連携しておきましょう。

    • 法律事務所(M&A・資本市場に強い大手):顧問契約を結び、四半期ごとに面談する。
    • IR/PRコンサルタント(有事実績ある専門会社):平時のIR支援を通じて、自社への理解を深めてもらう。
    • プロキシーソリシター(議決権勧誘専門):委任状争奪戦の経験が豊富な会社と連携する。
    • 投資銀行・財務アドバイザー:企業価値の評価方法論などを事前に協議しておく。
    • 証券代行(株主名簿管理人):株主判明調査を迅速化できるよう連携する。
  6. 想定問答集の整備・更新

    株主から問われそうな質問と回答を、あらかじめ「想定問答集」としてまとめておきます。具体的には、「財務・資本政策」「事業戦略」「ガバナンス」の3カテゴリで作成します。そして、この問答集は四半期ごとに見直し、決算前に最新の状態に更新しましょう。

  7. 情報開示の充実化

    日頃から情報開示を充実させることも、有効な防御策です。例えば、統合報告書などで、資本コストの目標値やキャッシュアロケーションの方針などを積極的に開示します。

    また、海外投資家向けに、英文開示の質を高める努力も必要です。決算短信などの英語版を、日本語版と同日に公開することを目指しましょう。

  8. 取締役会実効性向上

    取締役会の実効性を高めることも重要です。社外取締役の比率を高め、社会の要請に応えていることを明確に示します。その際、スキルマトリックスに基づき、財務やグローバル経営の専門家を登用しましょう。そして、実効性の評価結果や、取締役のトレーニング状況なども積極的に開示してください。


有事対応(アクティビスト出現時)

初動対応(受領後24~48時間)

アクティビストから接触があった場合、すぐに対策本部(War Room)を設置します。メンバーは社長、主要役員、IR・法務責任者などで構成してください。なぜなら、情報を一元管理し、迅速な意思決定を図るためです。したがって、対策本部は初動段階では毎日開催し、状況が落ち着けば週次へと移行します。

役割分担も明確にしましょう。例えば、社長は全体統括、社外取締役は客観的助言、IRは投資家窓口、法務は法的リスク分析、といった形です。同時に、有事対応を依頼する弁護士やPR代理店などとの連携も開始します。

意見表明のタイムライン戦略

第一次対応(受領後3~5営業日)

まず、提案を真摯に受け止め、慎重に検討中であることを表明します。この段階では、具体的な賛否は留保してください。あくまで、建設的な検討姿勢を示すことが目的です。

コメント例:「ご提案を真摯に受け止め、取締役会(必要に応じ特別委員会)で慎重に検討しております。株主価値最大化の観点から、結論を導き出す所存です」

第二次対応(2~4週間後)

次に、社外取締役を中心とした特別委員会を設置したことを発表します。あわせて、独立したアドバイザーを起用したことや、今後の検討スケジュールも提示しましょう。

最終意見表明(1~2ヶ月後)

最後に、提案に対する賛否を明確に表明します。その際、詳細な根拠や、代替案(もしあれば)もセットで提示してください。

海外株主対応の実務

海外株主への配慮も不可欠です。したがって、重要な発表は日英同時リリースを徹底し、タイムラグをなくしましょう。プレスリリースやFAQ、最終意見書などは、すべて日英両方で準備します。

海外投資家と面談する際は、社外取締役や英語対応可能な経営陣が同席すべきです。そしてDue process(適正な手続き)やFiduciary duty(受託者責任)といった用語を適切に使い、プロセスの公正性を具体的に説明します。

とりわけ、ISSやGlass Lewisのような議決権行使助言会社には、早期に自社の見解を説明することが重要です。「検討します」という曖昧な言葉は、「何もしない」と誤解されかねません。そのため、具体的なタイムラインや判断基準を明示し、株主価値を基準に論理的に説明しましょう。


成功の鍵

最重要ポイント

  • 平時の準備が8割:日頃から自社の脆弱性を解消し、株主との信頼関係を築き、一貫したメッセージを発信し続けることが最も重要です。
  • IR部門と法務部門の日常連携:平時の説明と有事の主張が矛盾しないよう、両部門で対話記録を組織的に共有し、連携を密にします。
  • 経営陣の危機意識:「驚かれない経営」を実践することが大切です。つまり、アクティビストを成長の機会と捉え、短期的な圧力に屈しない一貫性を保ちます。

このような体系的アプローチを実践することが成功の鍵です。そうすれば、アクティビストが出現しても冷静に対処できるでしょう。そして何より、平時の準備そのものが、結果的に企業価値の向上へと直結するのです。

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