赤坂国際会計事務所

トランプAI規制大統領令とは?州法との衝突と日本企業への影響・対策

2025.12.11UP!

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トランプ次期大統領が近く署名する予定の「AI規制阻止に関する大統領令」。もしこれが施行されれば、カリフォルニア州やコロラド州などの包括的なAI規制はどうなるのでしょうか?

本記事では、大統領令の全貌と、それが州法に与える影響、そして企業が直面する法的リスクについて解説します。米国のAIビジネス展開において、予測不能な「ルールの衝突」にどう備えるべきか、弁護士の専門的見解を交えて紐解きます。

大統領令の概要と「1つのルール」

トランプ氏は2025年12月8日、Truth Socialにて「AIで主導権を維持するには、1つのルールブックしかあってはならない」と宣言しました。50州それぞれが異なる規制を持つことはイノベーションを阻害するとして、連邦レベルでの統一を狙っています。

流出した草案によると、この大統領令は以下の4つの柱で構成されています。

① AI訴訟タスクフォース

司法長官に対し、30日以内に専門タスクフォースの設置を指示。州法が「州際通商を違憲に規制している」として、連邦裁判所で異議を申し立てる役割を担います。

② 連邦資金の制限

「過度」なAI法を持つ州に対し、BEADプログラム(ブロードバンド支援)などの連邦資金提供を停止する措置が含まれています。

③ 機関による先制措置

FCC(連邦通信委員会)やFTC(連邦取引委員会)に対し、矛盾する州法を無効化(プリエンプション)するための基準作成を指示しています。

④ 立法勧告

包括的な連邦AI枠組みを構築するため、ホワイトハウスのAI責任者らに立法勧告の準備を命じています。

トランプ政権のターゲットとなる「脆弱な州法」

2025年には全50州でAI法案が提出され、すでに38州で約100の新法が制定されています。法律専門家は、特に以下のカテゴリーが連邦政府のターゲットになりやすいと指摘しています。

包括的AI規制法

コロラド州の【人工知能のための消費者保護法】は、AIシステムによる差別から消費者を保護する全米初の包括法です。しかし、大統領令草案はこれを「AIモデルにDEI(多様性・公平性・包摂性)を強制するもの」として批判しており、真っ先に標的となる可能性があります。

また、カリフォルニア州の【SB 53(最先端人工知能における透明性法)】も、開発者に透明性報告書の公表を義務付けており、連邦の方針と対立する恐れがあります。

雇用決定関連法

採用や解雇におけるAI使用を規制する法律もリスクにさらされています。

  • カリフォルニア州:差別的な自動決定システムの使用を禁止。
  • イリノイ州:採用等での差別的効果をもたらすAIを違法化。
  • ニューヨーク市:【地方法144号】により、自動雇用決定ツールの監査を義務化。

ディープフェイク・バイオメトリクス規制

テネシー州の【ELVIS法】(音声クローン規制)や、イリノイ州の【バイオメトリック情報プライバシー法】など、個人の権利保護を目的とした法律も、企業のコンプライアンス負担が大きいとして精査対象に含まれる可能性があります。

大統領令には限界も?予想される4つの法的ハードル

政権の野心的な目標に対し、法律専門家は「大統領令だけでは州法を完全には無効化できない」と見ています。主な法的課題は以下の通りです。

1. 連邦先制(プリエンプション)の原則

憲法上、州法の無効化権限は主に議会にあります。民主主義技術センターの責任者は、「大統領令のみで州法を覆すことはできない」と指摘しています。

2. 休眠通商条項の壁

司法省は「州法が州際通商に過度の負担をかけている」と主張する構えですが、2023年の最高裁判決によりこの範囲は狭まっています。アンドリーセン・ホロウィッツの分析でも、「休眠通商条項は全ての州規制の障害にはならない」とされています。

3. 憲法修正第1条(言論の自由)

AI企業に出力変更を求める州法が、企業の「言論の自由」を侵害するという主張も予想されます。しかし、裁判所は「AIの出力は必ずしも保護される言論ではない」と判断する傾向にあり、この主張が通るかは不透明です。

4. 支出条項の制約

連邦資金の差し止め(BEADプログラム等)には憲法上の制約があります。最高裁の先例では、資金提供の条件は「明確」であり、「連邦の利益に関連」していなければならないとされており、強引な資金カットは裁判で却下される可能性があります。

よくある質問:トランプAI規制の影響

Q. トランプ大統領令で州のAI法はすぐになくなりますか?

A. いいえ、即座に無効になるわけではありません。
大統領令への署名後、司法省による提訴や連邦資金の制限といったプロセスが始まりますが、これらは長期的な法廷闘争に発展すると予想されます。州法が完全に無効化されるまでには時間がかかる、あるいは一部は存続する可能性が高いです。

Q. 日本企業への影響は何ですか?

A. 州ごとの対応と連邦への対応の「二重基準」に注意が必要です。
連邦政府が規制緩和を進める一方で、カリフォルニア州などが独自の規制を強化する可能性があります。予測がつかない事態に備え、最も厳しい州の基準(多くの場合はカリフォルニア州)をベンチマークにしつつ、連邦の動向を注視する必要があります。

弁護士 角田の見解

トランプ氏はAIに大きなうねりを感じており、Nvidia等の企業に対して諸々の施策を打ってきました。「連邦派」はAIの制御を大統領の手元に置きたいと考えているのに対し、それ以外の勢力は州という地方自治レベルで物事を進めたいとしています。

これはトランプ氏が関税政策などで米国を強くまとめていきたいという思惑と、それに対する反発の構図として理解しておくと良いでしょう。

日本企業へのリスクとしては、足並みがそろわないことで各州が別個の規制を敷き、予測がつかない事態になることが予想されます。連邦の動向だけでなく、主要な州の動きも注視が必要です。

著者情報

赤坂国際法律会計事務所
弁護士 角田進二(Shinji SUMIDA)

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