【物流法改正】荷主企業に課される義務とCLO選任の実務対応【2024年以降に施行対応】
2025.12.28UP!
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令和6年5月15日、「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」(通称:物流関連法改正)が公布されました。
物流は国民生活や経済を支える重要インフラですが、トラックドライバーの時間外労働規制(2024年問題)に伴う輸送能力の不足が深刻化しています。政府試算では、放置すれば2030年には輸送能力の34%が不足すると予測されています。
この危機に対応するため、政府はこれまで「聖域」とされてきた荷主企業の商慣習に法的なメスを入れました。本記事では、国土交通省の「物流効率化法」理解促進ポータルサイトの情報を基に、荷主に課される新たな法的義務と、実務担当者が押さえるべき対応策を記載します。
改正概要
(1)荷主・物流事業者に対する規制 【流通業務総合効率化法】
・荷主・物流事業者に対し、物流効率化のために取り組むべき措置について努力義務を課し、当該措置について国が判断基準を策定。
・上記取組状況について、国が判断基準に基づき指導・助言、調査・公表を実施。
・上記事業者のうち、一定規模以上のものを特定事業者として指定し、中長期計画の作成や定期報告等を義務付け、中長期計画に基づく取組の実施状況が不十分の場合、勧告・命令を実施。
・さらに、特定事業者のうち荷主には物流統括管理者の選任を義務付け。
※法律の名称を「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」から「物資の流通の効率化に関する法律」に変更
(2)トラック事業者の取引に対する規制 【貨物自動車運送事業法】 >>詳細はこちら
・元請事業者に対し、実運送事業者の名称等を記載した実運送体制管理簿の作成を義務付け。
・荷主・トラック事業者・利用運送事業者に対し、運送契約の締結等に際して、提供する役務の内容やその対価(附帯業務料、燃料サーチャージ等を含む。)等について記載した書面による交付等を義務付け。
・トラック事業者・利用運送事業者に対し、他の事業者の運送の利用(=下請けに出す行為)の適正化について努力義務を課すとともに、一定規模以上の事業者に対し、当該適正化に関する管理規程の作成、責任者の選任を義務付け。
(3)軽トラック事業者に対する規制 【貨物自動車運送事業法】
・軽トラック事業者に対し、[1]必要な法令等の知識を担保するための管理者選任と講習受講、[2]国土交通大臣への事故報告を義務付け。
・国交省による公表対象に、軽トラック事業者に係る事故報告・安全確保命令に関する情報等を追加。
令和7年10月1日/令和8年1月1日 他法令改正に連動する告示部分が段階施行
令和8年4月1日〜 特定事業者指定+CLO選任+計画・報告等の法的義務が本格発動
1. 法改正の背景:政府の強烈な危機感
🚚 政府の思考フレームワーク(全体最適へのシフト)
これまでの物流問題は「運送会社の努力不足」と片付けられがちでした。しかし、政府は以下の3点を問題の核心と捉え、パラダイムシフトを求めています。
- 個別最適から全体最適へ
「在庫削減のための多頻度小口配送」や「ジャストインタイム納品」など、個別企業の都合による最適化が、社会全体の物流リソースを浪費していると断定。 - 定量的管理の徹底
「なんとなく待たせている」曖昧さを排除。時間を「到着」「開始」「終了」で計測・記録することを義務化。 - 責任の所在の明確化
運賃を支払う発荷主だけでなく、着荷主(受取人)やFC本部(連鎖化事業者)も規制対象に取り込み、サプライチェーン全体の責任を問う。
2. 規制対象となる「荷主」の厳密な定義
今回の改正で特筆すべきは、規制対象となる「荷主」の定義が拡張された点です。「運送契約をしていないから関係ない」という言い逃れはできません。
① 特定荷主(第一種・第二種)
第一種荷主(主に発荷主)
貨物の運送について、物流事業者と直接「運送契約を締結する者」です。従来通りの荷主定義に該当します。
第二種荷主(主に着荷主)
運送契約の当事者ではないものの、「貨物の受取日時等を決定する者」を指します。
⚠️ ここが重要:
小売業や卸売業など、着荷主側の都合(検品待ちや店舗納品時間の指定)でトラックを待機させているケースが多いため、新たに規制対象に加えられました。
② 連鎖化事業者(特定連鎖化事業者)
FC本部など
フランチャイズ契約などに基づき、加盟店(特定連鎖化加盟者)に対して貨物の運送日時等を指示・指導できる事業者です。コンビニ本部やスーパーの本部などが該当します。
3. 全荷主・事業者の「努力義務」と判断基準
規模の大小に関わらず、すべての荷主・物流事業者には、以下の「判断基準」に基づく取り組みが努力義務として課されます。これらは単なる推奨ではなく、遵守状況が著しく不十分な場合は、勧告・公表の対象となり得ます。
A. 荷待ち時間の短縮
ドライバーの長時間労働の元凶である「荷待ち」について、国は厳格な算定ルールを求めています。
- 定義:ドライバーが到着(または指示された時刻)から、荷役作業が開始されるまでの時間。
- ルールの厳格化:指示時刻より早く到着した時間は含みませんが、荷主側の都合(休憩時間など)で待機させた時間はすべて「荷待ち」としてカウントされます。
- 推奨アクション:
- トラック予約受付システムの導入
- 出荷・入荷日時の分散(特定時間への集中回避)
B. 荷役作業等の効率化
本来、運送契約に含まれない作業(附帯作業)の適正化です。
棚入れ、ラベル貼り、検品、カゴ車への積み替えなどは、本来「運送契約」とは別の役務です。これらをドライバーに無償で行わせることは、法改正の趣旨に反します。
具体的対策:
- パレットの活用:特に標準仕様パレット(T11型)の推奨による、バラ積みの解消。
- 検品の効率化:ASN(事前出荷情報)を活用した検品レス化、テブラ検品の導入。
C. 積載効率の向上
「トラックを空で走らせない」ための施策です。
- リードタイムの確保:「翌日納品」を見直し、中1日以上のリードタイムを設けることで、混載や帰り荷の確保を容易にする。
- 発注量の平準化:小ロット発注を減らし、まとまった単位での発注に切り替える。
4. 「特定事業者」への法的義務:3つの柱
取扱貨物量が多い大企業は「特定事業者」として指定され、努力義務を超えた法的義務が課されます。
対象となる基準(閾値)
| 区分 | 指定基準(年間取扱重量) |
|---|---|
| 特定荷主 | 9万トン以上(全荷主の上位約50%を網羅) |
| 特定連鎖化事業者 | 加盟店の合計で9万トン以上 |
| 特定倉庫業者 | 保管量 70万トン以上 |
特定事業者の3大義務
指定を受けた事業者は、以下の3点を実行しなければなりません。違反した場合は勧告・命令が出され、命令違反には最大100万円の罰金が科されます。
① 中長期計画の作成
5年スパンでの物流効率化計画を作成・提出します。抽象的なスローガンではなく、「荷待ち時間の削減率」や「積載効率の向上率」などの数値目標(KPI)を含む必要があります。
② 定期報告
毎年度、計画の進捗状況と実績値を国に報告します。ここでは「荷待ち時間の実測データ」などが求められるため、事前の計測体制整備が必須です。
③ 物流統括管理者(CLO)の選任
本改正の「要」となる規定です。
特定事業者は、役員クラス(取締役、執行役員等)から物流統括管理者(CLO)を選任しなければなりません。
なぜ役員なのか?
物流部門長では、営業部門(販売)や調達部門(仕入れ)に対して、「納品条件の変更」や「リードタイムの延長」を指示する権限が弱いためです。経営判断として全社的な商慣習の見直しを行う権限を持つ者が、責任を負う仕組みです。
5. 実効性の担保と罰則スキーム
政府は本気です。「やらない企業」には厳格なペナルティを用意しています。
- 指導・助言:判断基準(努力義務)の遵守状況が不十分な場合。
- 勧告:正当な理由なく指導に従わない場合、または特定事業者の義務違反時。
- 公表:勧告を受けた場合、社名が公表されます。これはESG投資や社会的信用の観点から、罰金以上のダメージとなり得ます。
- 命令・罰金:勧告に従わない場合の措置命令、および命令違反時の罰金(最大100万円)。
6. 実践ガイド:今すぐ始めるべき対応
法改正への対応は、単なるコンプライアンスではありません。物流を持続可能なものにするための経営改革です。
Step 1:実態の「計測」
まずは「現状」を知ることからです。
「荷待ち時間は平均何分か?」「2時間を超える拠点はどこか?」
これを把握せずに計画作成は不可能です。デジタコや予約受付システム、あるいは手書きの日報集計からでも構いません。すべての拠点で時間を記録してください。
Step 2:契約の「書面化」
「附帯作業」の明確化です。ドライバーが行っている作業(棚入れ等)に対価は支払われていますか?
契約外の無償作業は「下請けイジメ」とみなされるリスクがあります。役割分担を見直し、契約書に明記しましょう。
Step 3:CLOを中心とした全社連携
物流部門だけで解決しようとしないでください。CLO(役員)の権限で、営業部門と顧客、調達部門とサプライヤーを巻き込み、「リードタイムの延長」や「パレット化」の交渉を開始してください。
📚 参考・出典(公式情報)
