赤坂国際会計事務所

応用美術と著作権:TRIPP TRAPP II 2026年最高裁判決による新基準と意匠法の境界線 

2026.05.07UP!

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この記事では、応用美術や量産実用品の著作物性に関する最新の最高裁判所判決(TRIPP TRAPP II 最判)の判断基準とその実務的影響について解説します。

応用美術や量産実用品関連の著作物性についての最高裁判所の判決が出ました。
これらは「我が国には、産業の発達に寄与することを目的として、視覚を通じて美感を起こさせる量産実用品の形状等を保護する意匠法があり、量産実用品の形状等について、意匠登録出願をして所定の審査を経て設定の登録がされることで意匠権が発生する。意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有し、意匠権の存続期間は原則として意匠登録出願の日から25年とするなどとされている(1条から3条まで、6条、16条、20条、21条、23条等)。これに対し、著作権法では、登録等の手続を経ることなく著作権が発生し、業として行われる行為以外にもその効力が及び、その存続期間は原則として著作物の創作の時から著作者の死後70年を経過するまでの間とし、著作者は著作権に加えて著作者人格権も享有するなどとされている(第2章第3節第1款から第3款まで、第4節等)。以上のような我が国の意匠法及び著作権法における権利の発生要件、内容及び存続期間等に鑑みれば、上記解釈を採り、量産実用品の形状等について、意匠法に加えて著作権法により保護されることを広く認めた場合には、あえて費用等を投じて意匠登録を受けなくとも、同法によって、より長期間、広範に保護が受けられることとなる可能性があり、意匠法の存在意義を損なうおそれがある。」ことから、安易に著作物性を認めてはならないとされていました。

最高裁判決の理論的背景と学説との関係

同判決は、分離可能性説が最も親和性が高く、次いで相対評価論の一部が補完的に機能しています。他の三説は最判と距離があるか明示的に排斥されているように見えます。

最判の中核テスト「観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるか」は、分離可能性説の直接的な変形です。ただし最判は米国101条型の「物理的分離可能性+独立存在可能性」は採らず、「観念上の別個把握」という認識論的な問いに純化しています。これは米国法との差別化を意識した田村説の日本版分離可能性説であり、尾島補足意見も「由来」「別個」という語の選択が意図的であることを示唆しています。

意匠法との役割分担と相対評価論

最判が意匠法との役割分担(費用・存続期間・手続)を保護範囲画定の根拠に据えている点は、相対評価論が「実用目的との関係での価値の比重」を評価軸とする発想と構造的に近い。ただし最判は「機能と別個か否か」という二値判断であり、相対評価論が想定するような連続的・比較衡量的な評価には踏み込んでいません。部分的な接点にとどまります。

「美的鑑賞」の語を排した意図

最判と尾島補足意見が「美的鑑賞」という語を意図的に使わなかったのは、この説が実質的に要求する「高度の芸術性・美的価値」を著作物性判断に持ち込むことを明確に拒否したものと理解します。

最判は、量産実用品について「思想又は感情を創作的に表現したものであれば直ちに著作物に当たるとの解釈を採ることは相当ではない」と明言しています。「ベルヌ条約(以下、単に「ベルヌ条約」という。)であるが、同条約は、応用美術の著作物及び意匠に関する法令の適用範囲並びにそれらの著作物及び意匠の保護の条件は、同盟国の法令の定めるところによる」「法制의異なる我が国で同様の保護が要請されることにはならない。我が国は、著作権法と意匠法がその保護対象や保護要件等を別個に定めており、著作権法中には応用美術に関する規定が存在しないことを前提に、法廷意見がいうように、同法と意匠法の適用範囲を法の趣旨や利害得失を勘案しながら合理的に画していくことが必要であるといえる。」との尾島補足意見もあります。

以上の通り、安易に保護範囲を広げず、絞り込むという点で、今後の下級審での運用で最も重要な変数になると予想されます。

TRIPP TRAPP II 最判(令和8年4月24日 最高裁第二小法廷)判断フロー

スタート

対象は量産実用品の形状等か?

  • No → 通常の著作物性判断へ(※美術工芸品、純粋美術、建築、図形等の別ルート)
  • Yes → 保護を主張する対象はどこか?

A. 表面等に付加された装飾部分か?

  • Yes → その装飾は、単なる模様・表面加工の域を超え、機能と関連せず、絵画・彫刻として別個把握できるか?
    • No → 非著作物
    • Yes → 創作性判断 → 「美術の著作物」(【著作権法】10条1項4号)
  • No / 又は全体形状を主張B. 全体又は部分の形状等が、機能と関連しつつも、機能由来構成とは別個の彫刻等として把握できるか?
    • No → 非著作物
    • Yes → 創作性判断 → 著作物 「美術の著作物」が単純に付加された上述の場合と同様

最判の二例示(いずれも「例えば」):
①A表面等に付加された装飾部分か? → 美術の著作物・保護は「当然」
②B全体又は部分の形状等が、機能と関連しつつも、機能由来構成とは別個の彫刻等として把握できるか? → (美術の範囲の)著作物・「例外的」保護・「相当」「例外性」の要件が実質的に問われるのは②のみ。①は当然保護ゆえ意匠法との緊張も小さいと思われます。但し、この点も、今後の判断で分かれてくるものと思われます。

同様に、25条展示権・47条の2などの「美術の著作物」に含まれるかなどの議論は、今後も継続すると思われます。

著者情報

赤坂国際法律会計事務所

弁護士 角田進二(Shinji SUMIDA)

 

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