赤坂国際会計事務所

マダガスカル政変と日本企業が取るべき具体的対策

2025.10.14UP!

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アフリカのマダガスカルで、政情不安が深刻化しています。若年層を中心とする抗議運動が激化しており、過去のクーデターの記憶も新しい状況です。そのため、現地に進出する日本企業にとって、カントリーリスクの見極めが急務となっています。本記事では、マダガスカルの政変リスクが企業活動に与える具体的な影響を7つのシナリオから分析します。さらに、事業と従業員を守るために今すぐ着手すべき対応策を専門家の視点から解説します。

マダガスカルで高まる政変リスクとその背景

現在のマダガスカルの政情不安は、単なる一時的な抗議活動ではありません。その根底には腐敗や貧困問題があり、過去のクーデターと同様の構造をはらんでいます。したがって、企業の危機管理担当者は、現地の動向を正しく理解する必要があります。

若者主導の抗議運動と軍部の動向

今回の政情不安の引き金は、若年層が中心となった大規模な抗議運動です。長引く貧困、停電、そして政府の腐敗に対する国民の不満が爆発した形です。さらに、現大統領がフランス軍用機で出国したとの情報もあり、事態は緊迫しています。その結果、権力の空白を埋める形で、軍部が実質的な権力を掌握する可能性が日に日に高まっています。

2009年には軍の一部が反乱を起こし、当時のラヴァロマナナ大統領が失脚。これにより、現大統領のアンドリー・ラジョエリナ氏が暫定政権を率いる立場へと移ったのです。しかし、彼が2018年に大統領に選出された後も、腐敗や貧困といった問題は深刻化しました。今回も「軍部が実権を握り、形式上は暫定統治を名目とする」というシナリオの可能性が高いと見られています。

政変が日本企業に及ぼす7大リスクシナリオ

マダガスカルでの政変は、外資系企業に多岐にわたる影響を及ぼす可能性があります。特に、法制度の急な変更や資産の安全性には注意が必要です。ここでは、想定される7つのリスクシナリオを解説します。

① ガバナンス・制度設計の変更

リスク内容:暫定政権が、憲法改正や大統領権限の強化など、統治構造を根本から変更する可能性があります。
企業への影響:これまで準拠してきた法制度が突然変わり、契約や許認可の前提が覆るリスクがあります。

② 資源主権の強化

リスク内容:国庫の枯渇などを背景に、ポピュリズム的な圧力が強まる可能性があります。その結果、鉱山や資源プロジェクトの利益を国庫へ納付するよう、強制される事態が想定されます。
企業への影響:主に資源関連企業が、一方的な契約変更や資産凍結などのリスクに直面します。

③ 公共投資の優先順位転換

リスク内容:軍事支出の拡大や、新政権の支持基盤となる地方への利益誘導が考えられます。そのため、公共事業の優先順位が大きく変更される可能性があります。
企業への影響:インフラ関連の契約が停止されたり、新規入札の機会が失われたりする恐れがあります。

④ 治安悪化とインフラの混乱

リスク内容:権力移行期の混乱により、全土で治安が悪化する恐れがあります。特に、地方の警備が手薄になり、交通網や港湾機能が麻痺するかもしれません。
企業への影響:サプライチェーンの寸断や物流コストの急騰、盗難・破壊のリスク増大、そして従業員の安全確保が困難になります。

⑤ 国際社会からの孤立

リスク内容:クーデターと見なされた場合、アフリカ連合(AU)や国連などから承認を拒否される可能性があります。その結果、経済制裁や援助停止に至ることも考えられます。
企業への影響:国際的な資金調達が困難になり、現地の金融システムも混乱します。また、貿易保険の引き受けが停止されるなど、事業運営の基盤が揺らぎます。

⑥ 法制度・契約の安全性低下

リスク内容:司法の独立性が失われ、外国投資を保護する制度や過去の投資条約が一方的に見直される可能性があります。
企業への影響:現地での投資紛争リスクが高まります。事実、前回の政変時も、裁判が長期化するケースがありました。そのため、資産差し押さえなどの事態に直面しても、法的な救済を得ることが難しくなります。

⑦ 情報統制・通信遮断

リスク内容:新政権が反対派を封じ込めるため、報道規制に踏み切る可能性があります。場合によっては、インターネットを含む通信が遮断されることもあり得ます。
企業への影響:現地の正確な情報収集が困難になり、本社との連携やIR活動に支障をきたします。また、従業員の安否確認も難しくなります。

【弁護士解説】今すぐ企業が取るべきリスク軽減・対応戦略

予期せぬ政変リスクに直面した際、企業の対応は初動がすべてを分けます。したがって、パニックに陥らず、冷静かつ多角的な戦略を実行することが重要です。ここでは、平時と有事の両方で有効な対応策を解説します。

専門家のコメント

マダガスカルのような政変多発国では、リスクへの事前準備が不可欠です。とりわけ、関連ノウハウの共有や、日本国政府との協働が極めて重要になります。

① 社員の安全確保と資産保全の徹底

最優先事項は人命です。まずは、社員とその家族の安全確保計画(避難経路、緊急連絡網)を確認・発動してください。同時に、現金や重要書類、データといった流動資産を安全な場所へ移すことも必要です。物理的な資産についても警備を強化することが求められます。

② シナリオ別リスク分析とBCP(事業継続計画)策定

「クーデター成功」「内戦状態」「二重権力」など、複数のシナリオを想定した影響マップを作成しましょう。そして、それぞれのケースで事業をどう継続、あるいは縮小・撤退するかの事業継続計画(BCP)を具体化します。優遇税制の撤回といった最悪のケースも必ず含めてください。

③ 契約・投資保護条項の再確認

既存の投資契約や取引契約をすぐに見直しましょう。特に、「国際仲裁条項(ICSIDなど)」や「不可抗力条項」の有無を確認することが重要です。また、政治リスクをカバーする海外投資保険(NEXIなど)に加入している場合は、その補償内容の確認も急務です。国際仲裁条項(ICSIDなど)の適用は時間がかかるので、日本国政府との協働の方が好ましいケースも考慮してください。

④ ステークホルダーとの関係強化

混乱期には、まず現地の従業員との良好な関係が不可欠です。それに加えて、地域社会との関係も事業を守る砦となり得ます。なぜなら、平時からCSR活動などを通じて地方政府や住民との信頼を築いておけば、有事の際の情報収集や危機対応で大きな助けとなるからです。信頼できる現地パートナーとの連携も同様に重要です。

⑤ 情報モニタリング体制の構築

本社と現地法人でタスクフォースを設置し、リアルタイムで情報を収集・分析する体制を構築します。現地の報道だけでなく、外交ルートや国際機関の声明、SNS上の動向もチェックしましょう。このように、多角的なソースから情報を集め、情勢を複眼的に評価することが不可欠です。

まとめ

本記事で解説したリスクシナリオと対応策を参考に、自社の危機管理体制を総点検してください。重要なのは、最悪の事態を想定し、平時から具体的な準備を進めておくことです。そして、日本国政府や大使館とも緊密に連携し、冷静沈着な対応を心がけましょう。

(よくある質問と回答)

Q1. マダガスカルの政変で、企業が最も注意すべき点は何ですか? A1. 最優先すべきは従業員の安全確保です。緊急連絡網や避難計画を再確認してください。その次に、財産の散逸の防止です。法制度の急な変更やサプライチェーンの寸断、資産凍結などの事業リスクが挙げられます。複数のシナリオを想定した事業継続計画(BCP)の策定が不可欠です。

Q2. 「カントリーリスク」とは具体的にどのようなものですか? A2. カントリーリスクとは、進出先の国の政治・経済・社会情勢の変化によって企業が損失を被る可能性のことです。具体的には、政変や内乱、法規制の突然の変更、外資規制、通貨価値の暴落、資産の強制収用などが含まれます。

Q3. 現地従業員の安全を確保するために、まず何をすべきですか? A3. まず、全従業員およびその家族の安否確認手段と緊急連絡網を確立・テストしてください。次に、安全な場所への避難経路や待機場所を定め、周知徹底します。情勢が悪化する前に、必要に応じて国外への退避計画を発動できるよう準備しておくことが重要です。

Q4. 「国際仲裁条項」とは何ですか? A4. 国際仲裁条項とは、進出先の国との間で投資に関する紛争が生じた際、その国の裁判所ではなく、世界銀行傘下のICSIDなど中立的な第三者機関の判断に委ねることを定めた契約条項です。但し、以上の強硬な手段をとるよりも、先に日本国政府との連携を先に検討してみて下さい。

この記事の監修者

赤坂国際法律会計事務所
弁護士 角田進二

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