赤坂国際会計事務所

ヤザキ社RRM発動

2025.11.26UP!

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2025年11月、以下の通り米国通商代表部(USTR)はメキシコのヤザキ社施設に対し、USMCAに基づく迅速対応労働メカニズム(RRM)を発動しました。これは自動車関連メーカーにとって対岸の火事ではありません。

RRMが発動されると、関税債務の凍結や輸入拒否といった強力な制裁により、サプライチェーンが寸断されるリスクがあります。本記事では、最新のヤザキ社事例をもとに、日本企業がとるべき初動対応、ステークホルダー管理、そして法的戦略について解説します。

ニュース概要:ヤザキ社へのRRM発動(2025年11月)

USTRはメキシコ・グアナフアト州のヤザキ社施設において、「結社の自由および団体交渉権の否定」の疑いがあるとして、メキシコ政府に審査を要請しました。同時に、同施設からの輸入品に対する通関手続き(清算)の一時停止措置を実施しています。

出典:USTR Press Release (Nov 19, 2025)

I. 初動対応:48時間以内の「止血」と信頼構築

RRM請願を受けた際、企業に求められるのはスピードと透明性です。以下の3ステップを直ちに実行する必要があります。

  1. ① 違法行為の即時停止と調査
    48時間以内に社内調査を実施。組合活動への干渉や報復行為が確認された場合、即座に中止させ、管理職へ「不干渉方針」を再周知します。
  2. ② 中立宣言の発出
    経営トップ名義で「労働者の結社の自由を尊重し、中立を保つ」旨の声明を出し、全従業員説明会および社内掲示で周知します。
  3. ③ ステークホルダーへの報告
    日本本社および自動車OEMに対し、状況と対応計画を即時通知します。また、メキシコ労働省(STPS)へ全面協力を表明します。

初期対応で最も危険なのは「隠蔽」と受け取られる行動です。調査中であっても、まずは「中立性」を対外的に宣言することが、後の交渉(改善計画の策定)において有利に働きます。

II. ステークホルダー別対応戦略

RRM対応は多方面作戦です。各ステークホルダーの関心事に合わせ、適切な「懐柔策」を実行します。

独立系組合(SINTTIA等)

関心事:結社の自由、報復の有無


  • 直接対話による中立性の約束
  • 敷地内でのビラ配布許可
  • 解雇者の復職・補償の検討

既存組合

関心事:代表権の維持


  • 全組合への公平な扱いの明言
  • 公正な組合代表選挙の実施支持
  • 労使三者協議の提案

従業員

関心事:雇用の安定、報復への不安


  • CEO名義での「報復ゼロ方針」確約
  • 匿名通報窓口の設置
  • 権利啓発セッションの開催

メキシコ政府・米国政府

関心事:USMCA義務履行、是正措置


  • 45日以内の是正完了へのコミット
  • 改善計画(Plan de Remediación)の合意
  • ILO等による独立検証の受入れ

III. メキシコでの正式手続と法的対応(45日以内)

メキシコ政府が審査に合意した場合、45日以内に結論を出す必要があります。企業側は以下の実務を遂行し、是正の姿勢を証明しなければなりません。

1. 公正な組合代表選挙の実施

労働省(STPS)やILOの監視下で、無記名・秘密投票による代表選挙を可能な限り早期に実施します。どちらの組合が勝っても結果を尊重することを事前に公約します。

2. 報復措置の完全是正

組合活動を理由とした不利益措置(配置転換、解雇、残業差別)があった場合、原状回復と金銭補償を行います。これを「改善計画」として文書化し、米墨両政府と合意することが早期解決の鍵です。

IV. 米国での法的対応戦略とCIT訴訟

是正措置と並行して、米国側での法的防衛も検討します。主な戦場となるのは米国国際貿易裁判所(CIT)です。

  • 行政的救済(税関への異議申立て):
    清算停止段階では効果が薄いものの、将来的な関税確定後の「保険」として重要です。
  • 司法的救済(CIT訴訟):
    手続き的瑕疵や権限逸脱(USMCA発効前の事案への遡及適用など)がある場合、CITへの提訴が強力な武器となります。特に「他の救済手段が明らかに不十分」であることを立証し、管轄権を認めさせることが戦略上のポイントです。

V. 結論:「和解」こそが経済合理的解

法的な徹底抗戦は可能ですが、CIT訴訟は判決まで数ヶ月〜数年を要します。サプライチェーンの維持を最優先する場合、高額なコストを払ってでも確実な「救済計画(Remediation Plan)」による和解を選択することが、実務上の最適解となるケースが大半です。

2026年のUSMCA見直しを見据え、今回の対応を単なるトラブル処理ではなく、真に労働権を尊重するガバナンス体制への転換点として位置づける経営判断が求められます。

著者情報

赤坂国際法律会計事務所
弁護士 角田進二(Shinji SUMIDA)

米国、ヤザキ社施設における労働者の権利否定疑惑についてメキシコに審査を要請(2025年11月19日)

ワシントン発 —
米国通商代表部(USTR)は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づく**迅速対応労働メカニズム(RRM:Rapid Response Labor Mechanism)**を発動し、メキシコ・グアナフアト州レオン市に所在する Grupo Yazaki, S.A. de C.V.(ヤザキ) の労働者が、結社の自由および団体交渉権を否定されているかどうかについて審査するよう、メキシコ政府に要請した。

米国は、同施設(自動車部品、ワイヤーハーネス、電子部品を製造)の未清算輸入品の通関手続(liquidation)の停止措置も実施している。

背景

米国通商代表(USTR)と労働長官は、**監視・執行に関する省庁間労働委員会(ILC)**の共同議長を務める。
2025年10月20日、ILCはメキシコの独立系労働組合 SINTTIA(Sindicato Independiente Nacional de Trabajadores y Trabajadoras de la Industria Automotriz) から RRM請願を受理した。

請願書では、ヤザキ社および同施設の既存組合が以下を行ったと主張している:

  • 従業員の労働組合活動への干渉

  • 独立系組合の結成を試みた労働者への報復行為

ILCは、受領したRRM請願と添付情報を30日以内に審査する義務を負っている。

この審査の結果、ILCは権利否定の疑いを裏付ける十分かつ信頼できる証拠が存在すると判断し、執行メカニズムを善意で発動するに足る状況と結論づけた。

そのため、米国通商代表は、ヤザキ社の労働者が結社の自由および団体交渉権を否定されているかどうかについて、メキシコ政府に正式な審査を求める要請を提出した。

メキシコ政府は:

  • 10日以内に審査の実施に同意するかを回答

  • 同意した場合、本日から45日以内に審査を完了

することが求められている。

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